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「そういえば私との出会いを覚えていない言ってましたね。これなら思い出しますか」
ポンと白い煙を巻き上げたかと思うと、先ほどまでの美青年の姿は忽然と消え、毛並みの美しい狐が一匹現れた。
「首の数珠、見覚えある」
足元にすり寄る狐の首元には幼少期、ケガで血を流す狐の首についていた物と同じような数珠の首飾りが付いていた。
あの時は酷い雨で、このまま見過ごせないと家に連れ帰り手当てしてあげたのだ。
数日間共に暮らしていたがある日忽然と姿を消した狐を思い大泣きしたことを覚えている。
「あの時の」
「そうです。あの時はろくにお礼も言えず申し訳なかった。私はあの時もう死ぬのだと思っていたから、本当に感謝しているよ。こうして立派に育ち、夢見た貴方との結婚をいま現実にできそうだ。本当にうれしいよ」
「そんなこと言われても、私、好きな人と結婚するのが夢なの」
「必ず好きにさせますよ。今度は私が恩を返す番。必ず幸せにします。お父上の会社のことも必ず何とかして見せます」
玖善は人間の姿に戻り、そっと私を抱きしめた。
「お二人さんさっさと籠に乗ってくれませんか。早く帰りましょうや」
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