五月

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五月

あっという間に出発の日になる 「おばあちゃん行ってくるね」 玄関でスーツケースを片手におばあちゃんに 挨拶する 「うん、藍ちゃんなら大丈夫頑張ってね」 なんだろう半年したら帰ってくるのに 永遠のお別れのように胸が痛い 「なんで泣きそうな顔してるの!」 おばあちゃんに笑われる 「半年後には会えるんだから頑張って」 「うん、おばあちゃん、無理しないでね 辛くなったら連絡してね 韓国なんて近いからすぐ戻ってくるから」 「ありがとう、でも大丈夫よ」 おばあちゃんは留学が決まってからは 私の前では調子が悪いところを見せなかった 元気がないおばあちゃんを見ると 私が行くのをやめると 言い出すと思ったのかもしれない 「行ってくるね」 そんなおばあちゃんに笑顔で挨拶をして家を出発した   空港に着くと クラスの友達や先生が空港まで見送りに来てくれた 「藍!頑張ってね」 親友の結衣が私の手を握りエールを送る 「結衣、ありがとう頑張って勉強してくる」 「うん、おばあちゃんのことは私に任せて」 私の留学中、結衣がおばあちゃんの様子を 見て連絡くれることになっている 「結衣、よろしくね」 そう言ってみんなと別れ飛行機で約2時間 韓国の空港に到着した 搭乗口を出ると私を推薦してくれた スタイリストさんが迎えにきてくれていた 「田塚さん?」 「あっはい!田塚藍です!よろしくお願いします」 深々と頭を下げて挨拶する 「半年間、よろしくね、期待してるから」 このスタイリストさんの名前は久保 千鶴さん 世界の有名アーティストのコーディネートを数こなし この業界では知らない人はいないくらいの人だ 韓国の人と結婚して拠点を韓国に置いているようだ 緊張しながら千鶴さんの後に着いていく タクシーに乗り、着いた先はどこかのスタジオの ようなところだった 「藍さん、明日からここのスタジオで アシスタントとして働いて勉強してね」 「あっはい!」 中に入ると日本でも有名な女優さんが 雑誌の撮影をしていた すっすごい! スタッフさんたちが細やかに動く モデルさんを引き立てるヘアーメイク、衣装 全てが初めの私は興奮しながら眺める しばらくして撮影が終わったのか モデルさんが退出していった 「千鶴さーん!いらっしゃってたんですか?」 スタッフの一人が声をかけてきた 千鶴さんは韓国語で話し返す 二人が話している会話を聞きながら とりあえず聞き取りは大丈夫かな?と思う 「あれ?この子は?」 突然私の存在に触れられ 「この前話した子、田塚藍さんよ!」 「あー!期待の留学生ね!」 「よろしく、韓国語わかる? 俺はここのスタジオの責任者兼スタイリストの キム ジフンです」 わかりやすいゆっくりと挨拶してくれた 「初めまして、私は田塚藍です。 よろしくお願いします」 片言の韓国語で話す 「すごい、話せるの?」 「昔、少しだけ住んでました」 「なら安心だよ!千鶴さんの大事な子 しっかり預からせて頂きます」 え?預かる? 意味が分からず千鶴さんを見ると 「ごめんね、藍さん 私、急なコレクションが入ってパリに行かないと 行けなくなったの」 「そうなんですか?」 日本人の千鶴さんが側に居てくれると思って 安心していたのでびっくりしたが 世界の久保千鶴を半年間も 私が独り占めできるわけもない 心の中では分かってたはずなのに不安になる 「何かあったらいつでも連絡して」 そう言ってパリへ飛び立ってしまった どうしよう、右も左もわからないのに 不安な思いが顔に出ていたようでジフンさんが 声をかけてくれる 「大丈夫だよ!僕も藍ちゃんの大会の コーディネートみたけど 本当に学生さんがやったのかと疑いたくな るくらい、すごいと思ったよ!すぐ慣れるよ とりあえず、今日から住むところ案内させるから」 そう言って近くにいた同じ歳くらいの女の子を呼ぶ 「ジウ?!今空いてる?この子は明日から来る アシスタントの藍ちゃん!部屋を案内してあげて」 「はーい!あっ私パク ジウです! ジウって呼んで!よろしく」 フレンドリーなすごく笑顔が可愛い人だった 「よろしくお願いします」 挨拶をすると 「なら行こうか?荷物これだけ?」 私のキャリーケースを転がし歩き出す 「あっ大丈夫です!自分で持てます」 「良いのよ、気を遣わないで」 先々とキャリーケースを転がしながら外に出る 「アパートすぐそこなの!スタジオ近くだから 楽よ」 そう言って案内されたアパートはスタジオから 10分くらい歩いたところにあった どうやらスタジオの関係者が多く住んでいるようで ジウさんも同じ建物に住んでるようだ 「藍ちゃんの部屋は302号室ね」 エレベーターで3階まで行き部屋の前に着く 千鶴さんから渡されていた鍵を差し 中へと入る 一人暮らし用にしては広く感じる キッチンと部屋が分かれている1DKの部屋だった 「結構広いでしょ?」 ジウさんが荷物を持って部屋に入ってきた 「私の部屋は503だからいつでも来てね」 「はいありがとうございます」 「藍ちゃん、私達歳も近いし敬語じゃなくても いいわよ!ジウって呼んで!」 「ででも、、、」 「本当に気にしないで、スタジオの皆んな 仲良しで良い人ばかりよ」 「うん、ありがとう」 留学先で初めて出来た友達と連絡先を交換して ジウはまだ仕事があるからとスタジオへ 戻って行った
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