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(一)
木葉鋭司が小内海一騎の手首に手錠をかけた。長く地味な捜査を続けた末の結果であった。
容疑は駐車禁止エリアでの自家用車の駐車と、市内の市道上での速度超過の道路交通法違反であった。
通常であれば署轄の刑事、それも経済犯や知能犯を追う刑事課二係の捜査官である木葉が、道交法違反で、しかも手錠を使って違反逮捕することなどかなりまれなことだ。
しかし今回の容疑者である小内海は、MGKホールディングスという戦前から存在し近年になり県内でも有数の企業体に成長した持ち株会社の人間であり、政治家への違法献金・贈賄や土地開発を巡る地権者への脅迫などの容疑がかけられていた。
しかしながら木葉たちの捜査機関側では、逮捕状を出せるほどの証拠を集めきれないでいた。そして捜査が大詰めになり、今回、数年前の駐車違反とスピード違反を理由に別件逮捕に踏み切ったのだった。
六八歳の小内海を覆面パトカーの後部座席に乗せると、木葉は車のドアを閉めた。そして自身もパトカーの助手席に乗り込んだ。
(続く)
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