琥珀色の夢

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――またここに来たかと思ったが、始めてきたようにも思えた。  琥珀色の湖、橙色の山々。  目の前がぼやけていく。数秒前すら思い出せずに。また、過去をなぞることを諦めてこの世界の今に集中する。  何度も、何度もここに来たということだけは分かる。  それがなぜかひどくつらかった。すぐにこの世界から切り離されてしまうような気がした。  どこからか、声がする。この場所で人の声が聞こえることにひどく違和感を覚える。 「思い出すべきだ」  はっと顔を上げると、目の前に友の姿があった。私はまるでずっと待っていたかのように安堵感と、嬉しさが表情に湧き出てしまった。 「やっと来てくれたんだな」 「いや、違う。お前が求めているものを満たすために現れたわけじゃない。思い出すべきなんだ、ここで。今ここで。」  何を不思議なことを言っているんだ? と顔をしかめたが。私は流されるがまま深い思考にもぐりこんだ。友を置いて私は深い、深い琥珀の水に溺れていった。  息苦しさはない、どこまでも明るい水の中に一切の闇はない。  琥珀色の水の底、這いあがろうと手を伸ばした空の先。真っ白な空の先、見えた空の色とは思えない緑黄色。 「あっ……」  そこで私はついに思い出してしまったのだ。いや、思い出したのではない。あの日から何度も何度も何度も繰り返し見てきたこの夢。ついに心が追いついた。明晰夢となり、夢と現実が繋がった。  ここに沈んでいるのは紛れもなく夢の私ではなく。現実の私であった。そして、向こうの現実を知っていた。 「私は、完成させたんだッ!」  そっか。そうだった。  一か月となったあの日、あの着信が来た。そうして、私はキャンバスを塗りつぶしたんだ。それでも、幸福な琥珀色の夢を見た。次の日から下書きに入った、何度も消しカスを床にまき散らし、琥珀色の夢を見た。  形を作り、色を重ねて。琥珀色の夢を見た。  夢の中の私は、現実で作業が進んでいることに気づかなかった。ただ、幸福の中にいて。朝起きた瞬間に、私は現実に絶望し、それを押し付けるようにカンバスに向かった。  そんな毎日だった。そして、昨日。ついに完成したのだ。
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