オカルト研究会調査記

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 帰宅後、智勇は今日一日のことを思い出してはにやにやしていた。  にやにやしながら、ポケットに入れていた道具を片付けるために引っ張り出す。  取り出した中にレコーダーの存在を認め、持って行っていた事を今更に思い出した。 「使わなかったなぁ……」  そういいながら、なんとなくレコーダーを弄り回し、ふと電池が切れていることに気づいた。 「あれ、確か出る前に新品に替えたはずだけど……」  予備の電池に入れ替え、なんとなく再生してみる。 『手作り弁当って奴か。青春だな』 『羨ましいですか?』  流れ出してきたのは自分たちの声だった。 「うわ、いつの間に……」  その後も二人の会話が延々と録音されていた。 「電池切れるまでずーっと録音してたのか……」  自分達の声をスピーカー越しに聞くのはあまり気持ちの良いものではなかったが、何となく再生を続けていた。 『クリスマス辺りとか……』 『そ……それって……』 「あー、恥ずかしい奴……」  顔が暑くなるのを感じ、智勇は再生を停止しようとした。  だが、その時だ。 『……チッ』  舌打ちの音が確かに聞こえた。 「ん?」 『いい加減にしてよね、こいつら』  それは女子の声だったが、明らかに亜紀のものでは無かった。 『何、見せつけてくれてんのよ』 『ふざけんな、さっさと出てってよね』 『マジで勘弁してほしいんだけど』 『いやもうほんと、良いから』 『写真撮りたいんじゃないの? ほら、ここにいるんだから』 『何でも良いからほんと帰ってよ』 『いやもうマジで勘弁して……』 『ねえ、帰ってってば』 『ほんとゴメンなさい。姿見せられなくてゴメンって謝るから』 『お願いします、帰ってください……』 『もう、やだ……』  智勇と亜紀の会話の合間に、そんな声がたっぷりと挟まっていた。  最終的に、声は半泣きになっているようだった。  やがて、二人が切り上げて帰ろうとする頃には、すすり泣きの声だけがその後ろに入っている。 『写真……一枚も撮ってないです』 『あー、じゃあ適当に……』 『そんなんで誰が写ってやるもんかぁ!!』  幽霊の怒鳴り声。智勇はそうだよな、ぐらいしか言う事は無かった。  そして、部屋のドアを開ける音が聞こえた。 『二度と来るなぁ!!』  絶叫に近い幽霊の声。  智勇はただ申し訳ない思いでいっぱいだった。 「なんか、悪い事しちゃったなぁ……」  とはいえ、おかげで楽しい一日だったのは事実。  感謝と謝罪の意味を込めてそっとしておこう。  智勇はそう思い、レコーダーを机の引き出しの中へそっとしまった。
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