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二人は取り急ぎ暖かい飲み物を一口飲んだ。
ほふっ、と白い息が舞い上がる。
それからようやく智勇が口を開く。
「で、何するかなぁ」
「提案があります」
「聞こうじゃないか」
智勇の言葉に、亜紀は一つ咳払いをして口を開いた。
「先輩は書庫の幽霊というのを聞いたことありますか?」
「ある」
書庫に女子生徒の幽霊が出ると言う話だった。
男子に告白しようとして、書庫で待っていた彼女は、突如起こった地震で倒れてきた本棚に潰されて死んだ。発見したのは呼び出された男子だったが、彼女は告白できなかった。それが心残りとなり、彼女は成仏できないまま今も男子の事を待ち続けている。
そんな話だったと智勇は記憶していた。
「意外と目撃話を聞くじゃないですか?」
「聞くなぁ」
書庫の窓に人影を見ただとか、中に人が入って行くのを見かけて追いかけたら無人だったとか、恐ろしい形相の幽霊と対面してしまったとか。噂のおかげで、現在書庫は生徒の立ち入り禁止となっており、今までは適当だった施錠もしっかりされることになったと言う。
「先輩は見たことありますか?」
亜紀の問いかけら、智勇は静かに首を左右に振った。
「私もです」
「たくさんの人が見ているというのに、なんで俺達は見られないんだろうな」
「オカルト研究会なのに……」
二人してため息。
「悔しいので、見ましょうと言う提案です」
「よし採用」
「ありがとうございまっす!!」
亜紀は腰からきっちり体を曲げてお辞儀した。
「どうやったら見れると思う?」
「やはり現場へ行くのが良いかと」
「確かにその通りだな」
「目撃者の多さから考えても、日中で問題ないはずです。後は見られるまで耐えることが肝要です」
「なるほど……」
「間もなく冬休みですし、一日張り込むのが良いと考えます」
「つまり、手薄極まりない冬休みに、二人でこっそり侵入してやろうと、そう言う事だな」
「そう言う事です」
きっぱりと頷く亜紀を見て、智勇はその案を迷いなく採用した。
こっそり侵入というスリル感、そして亜紀と二人きりで一日過ごす事に対する期待感などに、彼はすっかり魅了されていた。
幽霊が見られるか否かという点については、智勇の中で既にどうでもいい案件として隅に追いやられようとしていた。
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