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そして冬休みのある日。
智勇は校門前に制服姿で立っていた。
空は晴れ渡り、運動部の声がグラウンドからは聞こえている。
時間は一時過ぎだったが、相当に寒かった。それを少しでも緩和すべく、彼の体はひっきりなしにどこかが動いていた。それと同時に、彼の心もまた揺れ動いていた。
亜紀と足り霧で一日を過ごす事への期待感と、大切な後輩に風邪でも引かせてしまったらどうしようという不安感。もっと言うと、不法侵入がばれて先生達にこっぴどく叱られ、同好会の活動そのものが無くなる可能性まで考えて震えていた。
「やっぱり……」
彼が全部呟くより先に、軽やかな亜紀の声が冬の空気を駆け抜けて智勇の耳に飛び込んで来た。
「あ、せんぱーい」
振り向くと、そこにはきっちり防寒具で身を包み、さらに大き目のリュックを背負って小走りに近づいてくる亜紀の姿があった。
「な、なんだあの荷物……」
手を挙げて応じるのも忘れ、智勇は亜紀の姿を凝視していた。
亜紀はニコニコとした笑顔で智勇の前に立った。
「おはようございます」
「お、おう……」
「どうかしました?」
「いや、その荷物……」
「一日張り込みですから。ちょっとした用意です」
ちょっとの概念に果てしない隔たりを感じつつ、智勇はリュックを指さして尋ねた。
「何が入ってんの?」
「えーと、毛布とかポットとか紅茶とかカイロとか……」
暖を取るものが次々に列挙されていく。
智勇は亜紀の本気を感じずにはいられなかった。
「先輩は? 身軽ですね」
「えーと、カイロとレコーダーとスマホと……」
全てポケットに収まっている。
それがとてつもなく恥ずかしいことのように思え、智勇は思わず俯いた。
「おお、レコーダーですね。さすが先輩、えらい」
「お、おう……」
褒められても、それを素直に受け取れなかった。
後輩がこんなに本気なのに、先程まで自分は止めといたほうがなんて考えていた。
その事もまた、智勇の心に少しだけ影を落としていた。
「さあ、行きましょう。書庫の幽霊が待ってます」
「あ、ああ、そうだな」
正門の方を振り返り、力強い一歩を踏み出す亜紀。
智勇の足取りは、それより少しだけ鈍かった。
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