オカルト研究会調査記

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 あまり使われていないだけの事はあって、全体的に埃っぽい部屋だった。  壁はぐるり本棚になっており、手に取る気も起きないような題字の背表紙が並んでいる。  部屋を見回す真鳥の足元で、亜紀は早速荷解きを始めていた。  座り込むためのレジャーシートを敷き、その上に早速腰を下ろす。 「水は二階のトイレで汲みましょう」  そう言いながらリュックの中から小さな電気ポットとカップスープの素が入っているアルミ袋を引っ張り出した。その二つをじっと見つめながら、ポツリと亜紀が呟く。 「……私がお湯を注いだら、手作りって事になりますかね?」 「全国手作り審査委員会の判断によるが、概ねぶん殴られるんじゃないか」 「くっ、全国手作り審査委員会めぇ……。あの暴利を貪る悪徳組織……」  拳を握り締め、体を震わせる亜紀。  二秒前に智勇が思い付いたこの組織は、どうやら何かしらあくどい方法で利益を得ているらしい。それが亜紀にどのような不利益をもたらしているのかは全く持って不明だ。だが、こういうノリのいいところも可愛いなと思う智勇であった。 「トウモロコシの栽培からやればいいのかしら……」  それは確かに手作りに違いなかったので、智勇は大きく頷いた。  それを目指すために足りないものが随分あるが。例えば土地とか。  だが、智勇はそれ以前の悲しい事実に気が付いてしまっていた。 「ていうかさ、カップ無くない?」  智勇の突っ込みに目を見開きガタガタと震えだす亜紀。冷汗が噴出し、彼女の額にびっしりと水玉模様を作る。 「かっ……ぷ……」 「なんか……器的な物でも良いけど……」  荷物の中を亜紀は覗き込み、すぐに絶望的な表情で智勇を見上げた。 「わ、私の手で……」 「そんな痛々しいカップスープいらん」 「うう……。何と間抜けな失敗……」 「まあまあ、別に今のところ寒くないし……」 「今度っ!!」  くわっと目を見開き、亜紀は智勇に詰め寄った。 「わっ、びっくりした」 「今度、お弁当作ります。作って差し上げますから、食べてください!!」 「お、おう……ありがとう」  予想だにしない流れで手作り弁当を食べられる権利が転がり込んできた智勇は、一瞬そこで戸惑った。 「ただ、教室で貰うと……目立つなぁ」 「すみません……。私ってば配慮が足らず……」 「え、あ、いやいや……気持ちは……嬉しいよ」  そう言いながら、智勇は自分の口から出た言葉の方がむしろ配慮不足だったことを痛感し、己を心の中で罵っていた。 「で、では、次回のこんな活動の時、ではいかがでしょうか?」 「こんな活動?」 「そうです。オカルト研究会が一日がかりの活動をする時です」 「なるほど……それなら。昼飯は必要だしな」 「ですです」  パッと顔に笑顔を浮かべ、亜紀はうんうんと何度も頷いた。 「とすると、どこで調査をするかが重要になってくるなぁ。幽霊も出ないし、次の打ち合わせでもしとくか」 「賛成です!!」  こうしてしばしの間、二人は次の調査をどこにするかなどの話で盛り上がった。
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