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智勇は考えていた。
オカルト研究会に二人しかいないということは、次回の調査ももちろん二人きりで行くしかない。
さらに言えば、亜紀は弁当を作って持ってきてくれるらしい。
これはデートの打合せと言って過言ないのではないか。
「調査はどこが良いかなぁ?」
「どこですかね。近所の廃墟とか心霊スポットは、割と行ったことあるんですよね」
「んで、出たの?」
「これがさっぱり」
悲しそうに亜紀は項垂れた。
そんな亜紀に対し、智勇はすかさず言った。
「ひょっすると、だ。考え方を変えないといけないのかもしれない」
「……というと?」
「心霊スポットに乗り込んでダメだったのであれば、誘い出すという考え方だ」
「誘い出す?」
「例えば、人がたくさん集まるところには、それだけ良くないものも集まるというだろ?」
「なるほど、確かにそういう話があったかもしれません」
第一段階クリア。智勇の中の小さな智勇がガッツポーズをとった。
彼の脳は今、フル回転していた。恐らく、テストでももしでも使ったことないほどに脳を活用し、デートの成立に向けて話を組み立てていた。
「ということは、そういうところで霊を刺激してやれば、見れるかもしれない」
「つまり……どういうことですか?」
「人が集まる時期に集まるスポットへ行くと言うのはどうかな」
「例えば?」
「例えば……カオーゼモールとか」
カオーゼモールは隣町にできた大きな商業施設だ。
買い物の他にレストランや映画館、お洒落な庭園やら謎のモニュメントやらがあったりして、人気のデートスポットになっている。クリスマスに向けた現在、カオーゼモールの真ん中にある広場には、巨大なクリスマスツリーが建てられており、連日SNSにその画像がアップされまくっている。
「人が集まる時期……」
「クリスマス辺りとか……」
「そ……それって……」
亜紀はそこで言葉を切ってしまい、沈黙がその場に漂った。
二人ともちらちらとお互いの顔を見ては、目が合うと何となく逸らす、というようなことを繰り返している。
「えと……」
亜紀が何か言おうとしたその瞬間。
パシッとガラス窓に小石が当たったような音が響いた。
「キャッ……」
亜紀が首をすくめ、目を閉じる。
智勇はその亜紀をかばうような姿勢で辺りを見回す。
特に何かが落ちたり当たったりしたような形跡は見られない。
「な、なんですかね?」
「窓に、小虫でもあたったんじゃないか?」
「あ、ああ、そうですね」
このくそ寒いのにガラス窓を震わせるような虫?
そんな疑問がちらりと湧いたが、そのまま胸の奥へと沈めなおした。
パシッ、とまた音が響く。
今度は亜紀も目を閉じず、周囲を見回した。
「先輩、これはラップ音という奴では?」
「という事は、ついに現れるか?」
俄かに漂う緊張感。
智勇と亜紀は手に撮影道具を構え、出現を見逃すまいと周囲に目を凝らした。
「出ないな……」
「ですね」
「構えすぎたか? もう少し、雑談しとくか」
「はい」
二人は緊張を悟られまいと、お互いのほうを向き喋り始めた。。
「えーと、調べないといけないよな」
「え?」
「ショッピングモール。怪しいよなぁ」
「あ、はいっ!!」
「どういう感じで言ったら誘い出せるかな……」
「そこはポイントですよね……」
初めのうちこそ辺りに気を配っていた二人だが、いつの間に会話に没頭していった。
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