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愛しています、マイ・ロード
「では、イメージトレーニングと参りましょう」
クラリッサは王子の両肩に手を乗せて続ける。
「目を閉じてください。今あなたは、王都のメインストリートを進んでいます」
王子の耳元で、吐息が聞こえる。
「続いて大聖堂の中へ。神官にデミ教の神名を誓って、戻ってきます」
肩にあった手がゆっくり胸元へ降りてきた。
「王宮の噴水前を通過し、アルフレット国王の前に」
ふわりと香る、メイドのシャンプー。
「誓いのキスを」
王子の唇はいとも容易く、メイドに奪われた。
視界は奪われていても何が起きているのかは簡単に分かる。
絡まる舌からほんのりとウィスキーの香りがする。飲み込んだ唾液からウィスキーの味がする。
結婚前夜にする行為じゃないことくらい分かっている。
婚約者のマリアに対する絶対的な裏切りとも取れる。
それを拒むことができなかったのは、王子にとって、クラリッサがどれほど大切な存在であるかを示していた。
「これは酒のせい、そういうことにしましょう」
酒のせいか顔を赤らめて、涙が溢れそうになる彼女を見て、これを拒絶することがどれほど困難か。
ゆっくり離れるクラリッサを掴んで引き寄せた王子が、今度はメイドの唇を奪ってみせた。
目を丸くしているメイドをよそに、王子は先の彼女の言葉を否定した。
「酒のせいにしていいのか? クラーラ、お前はオレのことを愛しているだろ。その気持ちを隠さないで欲しい」
「思い上がるなよ少年。
…………と、言いたいところですが、まことにその通りです。私は……。私とあなたが同じ身分ならどれほど良かったか……。手中にあるはずの幸せが幻だったという現実を、明日、見せつけられる前に……。私は……」
「オレはお前が死ぬまでお前を専属メイドにしておくつもりだ。誰と結婚しようが、それは変わらない」
「まあ。死ぬまでなんて。おばあちゃんになったら、あなたの介護はできませんよ?」
「随分と現実的だな」
「これは現実ですから」
クラリッサは再び王子に、今度は正々堂々と口づけし、そのままベッドへ押し倒した。
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