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二人の秘密です、マイ・ロード
式も終わり、クラリッサはメイド長のクリサに会った。
「私に伝えたいこととは?」
「来ましたね。クラリッサ。では、まずはそちらの服にお着替えください」
メイド長の示すまま、服を着替える。
青を基調とした、立派なドレスだった。背中は大胆に開き、足元のスリットがクラリッサの美しい脚を彩る。これで夜に行われる舞踏会にでも出ろと言うのだろうか。
「似合ってるじゃないか」
「王子が一番見ているんですから、当然似合いますよ」
鏡に映る自分を眺めていたら王子がいつの間にか居た。
恥ずかしさから硬直していると、王子が手を取った。
「よく似合ってる」
王子に抱き寄せられ、何がなんだか分からないまま、クリサが写真を撮った。
「ま、待って……ください……」
「どうした?」
「その……ちゃんと、形にして残したい……です」
クラリッサが乙女のように恥じらうと、王子はその手を取り、背中に腕を回した。
見つめ合う二人が写真として形に残った。
「どうしてこのようなことを……?」
「一番お世話になった、大切な人にだな……折角オレがこういう格好をするんだから……こう、なんだ……? メイドだからといって、晴れ舞台から降りてるのはおかしいだろ?」
「……マイ・ロードらしいですね」
初めて、クラリッサが彼の専属メイドとして出会った時だ。
「お前はオレの専属メイドだが奴隷でも下働きでもない。身分の差があるというだけでオレはお前を蔑ろにはしたくない。そこでだ、クラリッサ。お前は普段身内から何と呼ばれている?」
「クラーラ、と、呼ばれています。マイ・ロード」
「よし……ならばクラーラ、二人で居るとき、オレはお前をクラーラと呼ぶことにする。そして、お前は二人のとき、オレをマイ・ロードと呼ぶのはやめろ。何か、もっと、身分の差がないような……そういう呼び名を使ってほしい」
「ではマイ・ロード。王様や王妃様から何と呼ばれていますか?」
「名前で呼ばれているな……。そういえば愛称など……無かったな……」
「では………………アシュティ。……いかがでしょう」
「アシュティ……。良き愛称だ。これはクラーラだけがオレをそう呼ぶ。オレの愛称……」
弱冠10歳の王子はこの時、初めて誰かに愛称を呼ばれたのだった。そのことが何よりも嬉しかった。
そして、彼と彼女だけの秘密ということも。
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