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お仕え致します、マイ・ロード
「クラーラ、バルトウィスキーを1つ持ってきてくれ」
「かしこまりました。マイ・ロード」
午後10時を回るか否かのこの時間、メイドを呼びつけるのは珍しい。しかも要件は酒を持ってこい、と。
王子の専属メイドは早速、瓶を1本、グラスを2つ、チーズやジャーキーをいくつか持って、王子の部屋を訪れた。
「お持ちいたしました」
「こんな時間にすまないな、クラーラ」
「アシュティ、明日はマリア様との結婚式でしょう? あまり深酒にはならないように」
「ああ」
グラスに注がれた琥珀色の酒に少し口を付けて、王子は黙ってしまった。
いつも酒を飲むと饒舌になる王子が、いや、口をつけただけで飲んですらいないなんて珍しい。
「ふふっ……アシュティ。あなた、緊張されてますね?」
王子が持つグラスの中身が漣を立てた。
すっ、と息を吸う音がしてから小声で王子が言う。
「全く、その通りだ。こんな惨めな姿、お前にしか見せられなくてな」
「私とリハーサルした通りやれば大丈夫ですよ」
「いや、そうは言ってもな……」
「まあ、国民はアシュティに期待してる感じはないですし。そう固くならずに」
「言い方選べよ」
図星を突かれた王子は苦笑いと共に言葉を返した。
王子は笑った顔がかわいい。
「ご安心ください。王都のパレードであなたの乗る車両を運転するのは私です。なんなら、緊張でガチガチになった笑顔を民衆に晒すしかないアシュティに、私が指示を出してもいいんですよ」
「ほう……それはそれは……」
王子が酒を一気にあおった。
それを10年に渡って身を尽くしてきたクラリッサが見逃すはずはない。
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