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3話 シオンに脳筋聖女がバレました
最初にパーティに加入してから1か月半くらい経ったかも。
私たちは魔物の被害が多いという地方へ移動していた。
戦闘での連携もばっちり。
まずシオンが魔法で先手を打ち、リアナが魔法と剣で切り込んで、イグニス様が大ダメージを与える。
私は大体その間後ろで控えている。みんながケガしたり状態異常攻撃を受けたらすぐ回復できるように。
だけど、あんまり出番がないんだよね。
なんかみんな、最初からすごく強いんだけど。すでに完成されてるんだけど。
苦戦してるのなんて見たことない。
これならもう魔王なんて倒せるんじゃない?
まあでも、魔王はものすごく強いのかもしれないから、油断はしちゃダメだよね。
あ、いけないいけない。ぼけーっと考えてたら、もう戦闘終わっちゃってた。
「みなさん、お疲れ様です」
そういって水筒を差し出すと、イグニス様とリアナは「ありがとう」と受け取って一気に飲んだ。シオンは「ん」とだけ。
……シオンのやつ、ほんっと可愛くない。
顔が引きつるが、何とか慈愛フェイスを崩さない。
「はぁ、うまい。サポート助かるよフェルマ」
イグニス様が微笑んで言ってくれた。さらっと風に金髪が揺れて。額の汗が煌めく。
はわわわ~なんて素敵なの。
「いえ、皆さんお強いので私の出番がなくて。これくらいさせてくださいませ」
「なんだ、そんな風に思わないでいいのに」
そう言うと、リアナはニカっと笑った。
ありがたいんだけど、やることないのもなんか申し訳ないんだよねえ。
ちなみに神殿にいる時、魔力をまとわせて身体を強化する技も、いろいろやってたらなんか出来るようになった。
だから私が魔力で身体強化して物理で戦えば、もっと役には立てると思うけど、なんかそれって、聖女のイメージとかけ離れるしな……
イグニス様に脳筋聖女って引かれるのもやだし。
そう、そのイグニス様なんだけど、仲良くはなれたんだけど、なんかこう、薄皮一枚触れられないというか、まだ少し線を引かれている気がする。
うーん。もっと仲良くなるにはどうしたらいいんだろうなあ。
♢♢♢
魔物の討伐が終わったので、私たちは街の宿に戻って来た。身支度を整えている間に夜になり、お腹もすいたから、宿の隣にある酒場で夕ご飯を食べることになった。
「お待たせ~」
酒場のウェイトレスさんが、山盛りのお肉と野菜の炒め物、根野菜のスープ、大盛りのパンとジョッキに入った飲み物を持ってきてくれた。みんなはいつもお酒を飲む。私のだけ果実水。
お酒、ほんとは私も飲んでみたいなあ。
けど、そんな聖女、イメージぶっ壊れだ。なのでガマンしてる。
「これ美味しいわね」
ジョッキのお酒を何杯も飲んだリアナはいつものように上機嫌になって、イグニス様へのボディタッチが増えて来た。
うぐぅ……。
イグニス様もそんなに嫌そうじゃないところが、もやもやしてしまう。
見たくないから、さっさと食べて宿に帰ろう。
「私、お先に宿に戻らせていただきますわね。それではおやすみなさいませ」
にっこり笑って聖女ムーブ。くぅ、心は嵐だよ。
「ああ、フェルマお疲れ様。ゆっくり休んでね」
イグニス様の微笑みだけを見て、私はさっと出て行った。
外に出ると、酒場の前に3人くらいのガラの悪い男たちが座っていて、目が合ったとたん、その男たちは私にニヤニヤと話しかけてきた。
「おー綺麗なねえちゃんだな。俺らと一緒にうまいもんでも食わねえ?」
「今食べて来ましたので、結構ですわ」
聖女ムーブでかわすが、3人は立ち上がって目の前に立ちはだかる。うへえ、酒臭い。
「そんなこと言わずに行こうぜえ」
「申し訳ありませんが、お断りします」
「いーからいーから」
酔ってて人の話を聞いていないのか、しつこいな。
そのうち、一人が私の腕を掴んで来て、私は静かにキレた。
こちとら、ただでさえ機嫌悪いんだからな?どうなっても知らねえからな?
あんたらぶっ飛ばしてイライラを解消させてもらうからな?
おっと、その前に周りを確認せねば。うん、こいつら以外に見ている人はいないな。
「私に触れないでくださいます?」
言うと、私は魔力を体に纏わせ、かるーく掴まれた腕を振り払う。男は数メートル先に転がっていった。手加減はしないと、ケガをさせてしまう。
「おっ!?なんだこの女?」
男が転がっていったのを見たのに、残りの二人は信じられなかったのか、気色ばんで私に掴みかかろうとした。
掴みかかって来た一人目の方は、その手をはねのけて、足元を払って倒す。
「うわ!」
もう一人の方は腹パンで地に沈めた。
「うッぐ」
ふう、まったく人が機嫌の悪い時に絡んでくるからだよ。
あっ、そうそう。今の見られてないか確認しましょ……と、振り返ったところでこっちを見ているフードと目(?)が合った。
「シオンーーー」
「ーーー大丈夫か?」
やっば、今の見られた?見られたの?
「この方々転んでしまったようですわ。どうか助けて差し上げてくださいませ。それでは私は宿に戻っておりますね」
にこおおっと聖母スマイルを浮かべると、私は後ろも見ずに早足で歩いていった。
いや、怖くて後ろ向けない。
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