第一審 医療過誤! 1

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第一審 医療過誤! 1

子供の頃から心に決めていた弁護士という職業を、やっとの思いで勝ち取ったというのに、現実は全く甘くない。 「だはー」  十和島穂香(とわじまほのか)はだらしのない声をあげて、デスクに突っ伏した。広いとはいえない自分のデスクスペースには、大量の資料が乱れ舞っている。 「やってもやっても終わらないよー……」  ついつい泣き言を漏らす。 「言う時間が勿体ない、早く、起案出せ!」  隣の席の先輩弁護士の緒方が、冷たく言い放った。  百歩譲って忙しいのは良い。体力には自信があるし、この業界のブラックさを覚悟して入ってきた。  問題は、 (こんだけ仕事しても給料が安すぎ……)  このことだ。  言わずとしれた文系の最難関試験、司法試験。だがしかし、十数年前導入された新司法試験制度のお陰で、今や合格率は三十%前後を推移している。今後の裁判の増加と弁護士需要を見越してのものだったが、今現在、肝心の弁護士需要は大きく増えたとは言えない。  穂香は何とか司法試験に受かって、半年ほど前に、町の弁護士事務所、いわゆるマチ弁「沼田法律事務所」の新人居候弁護士になった。しかし、今のところOL並の給料しか貰っていない。  貰えるだけありがたい、就職先があるだけありがたい。そんなことは分かっているが、法科大学院まで行って、バイトしながら何年も勉強し続けた挙げ句、生活がやっと。  司法試験に合格しただけでレールに乗れた時代はもう終わった。弁護士の中にも格差がある。  新任から年俸一千万円も貰えるような大手弁護士ファームに就職できるのは、一流法科大学院を出て、上位数パーセントで司法試験に受かった超エリート弁護士だけ。  自分は甘かったのだ。  所長の沼田が立ち上がり、椅子の背に掛けていた上着を取り上げた。 「さて穂香さん、僕、前言ってた裁判行くけど、見学する?」 「あっ、行きまーす!」  穂香も慌てて立ち上がる。デスクにかじりついて下働きするより、裁判所に行ったほうが楽しい。 「十和島、起案は!」 「帰ったらやりまーす」  顔をしかめた緒方に適当に返事をする。穂香は、沼田の後を追いかけて外に飛び出した。
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