(イ)10.「さよなら野良ブログ」

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(イ)10.「さよなら野良ブログ」

 ここは、あるブログサービスのサーバーの中  玄関を開けて中に入ると数え切れないほどの部屋がずらり。  目を細めてみても行き止まりは見えない。  そのひとつに近づいて中を見る。  無数のブログ達が佇んでいる。  中の一匹が語りだした。 「はじめのうちは、とても楽しかったんです。ご主人様は私に飾り付けをしてくれたり、取って置きの楽しい話を載せてくれました。でも、それは一ヶ月ぐらいの間だけでした。それからかれこれ半年以上、ご主人様は帰って来ないんです」  呼応して周りのブログ達も頷く。 「そう、私たちは野良ブログなんです」 「確か、君たちは1年間ほおっておかれたら消されちゃうんだよね」と僕。  頷く無数の野良ブログ 8ef2e208-c3b4-4676-9301-bee0da6b66ac  なんだか僕は切なくなって、つい言ってしまった。 「なんなら、僕が君達の新しい主人になってあげようか?」  野良ブログ達はNOと首を振る。  その顔には明らかに軽蔑の笑いが入っていた。  そしてそれに気が付いた僕に『出ていけ』とばかり奥の方をあごで指す。  …………  同じような野良ブログ達が次の部屋も、そのまた次の部屋も……。  歩いても歩いても野良ブログの部屋は続く。  ようやく行き止まりが見えてきた。  …………  一番奥の部屋の格子戸が空き、野良ブログ達がぞろぞろと並んで出てきた。  どの野良ブログも胸に『364/365』と記されている。  僕に気が付いた野良ブログ達が一斉に声を上げた。 「あなたはせめて自分のブログだけでも大切にしてあげて下さい」 「私たちの様にならない様に……」 「じゃあな」 『364/365』の野良ブログ達は口をそろえてそう言うと、さあ、ここから出て行きなさいと外を指差した。  門を出た帰り道、背後から振り絞った声が響いた。 「ブログだけではなく、ツイッターやTikTokや、ほかのSNS達にも、この事を伝えてやってください」  続いてあまりにも軽やかな一斉Deleteキーのプッシュ音が一度だけ響いた。  さよなら野良ブログたち……。
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