(イ)14.「てーへんだー」

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(イ)14.「てーへんだー」

「てーへんだー てーへんだー」 「おや、誰かと思えば居酒屋のバイトの長さん、えらく賑やかだが何か事件かい?」 「へえ、大家の旦那、実はあっし、流行り病のお陰で遂に解雇で収入がなくなっちまってね」 「そりゃ、てーへんだ」 「だから内職を始めたんですが、銭にならない割にこれがまた細かい仕事でね」 「なるほど、確かにて―へんだ」 「目はしょぼしょぼするわ、手なんか使い過ぎて痛くて痛くて、もうどうしようもなくなって……」 「うーむ、てーへんだ」 「でさっきから、やけのやんぱちになって大声で叫んでるんでさあ」 「ああそれで、てーへんだー、てかい?」 「いいえ、そうじゃなくって……」 「手変だー」  てね。  …………  ところがこのお話、続きがございまして  ………… 「ところで大家さん、聞くところによると長屋の住人も家賃滞納してるヤツいっぱいいるんだって?」 「うーん、そうなんだよ、みんな流行り病のせいで仕事がなくてな、こんな時に店子から、むしり取るわけにもいけねえしな」 「そうかい、泣ける話だねえ……。大家と言えどもこのご時世、て―へんなわけだ」 「そうだよ、みんなてーへんなんだ」 「じゃこの際大家さん、て―へんなヤツみんな集まって、憂さ晴らしに叫びましょうか!」 「そうだね、そりゃいい考えだ」  と言う訳でで、もう一発いきます。 「おやおや!ずいぶん集まったねえ!」 「みんな、てーへんなんだなあ」 「では、いきますか」 「てーへんの大合唱だ」 「いいか~い」 「よっしゃ、じゃ全員で! 「せーの」 「底辺だーーーーーー!」  おそまつ  チャンチャン 7cadf49b-457e-4e43-a574-737d9fa3f2db
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