母親

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 バスからの景色を見るのが大好きで、バス停の名前や、車内で流れるアナウンス広告や、その息継ぎのタイミングまでピッタリ覚えて真似をしては周囲の人を笑わせていた。  もう一度あの子の声を聴きたい。その思いは日に日に強まり、気が付いたら片っ端から霊能者のところを回るようになっていた。ありとあらゆる人間が、ありとあらゆることをいってうちに上がり込んできた。息子さんと話をさせてあげる、息子さんは暗闇にいます、先祖の霊を慰める必要がある…。嘘だと思いながらも要求されるがままにお金を出した。気が付いたら夫は自分の元を去っていた。  今年もまたバスに乗ろうと決めたのは午後になってからだ。
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