花嫁

5/8

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 ちょうど六年目の命日の夜だった。S君のお母さんは思いのほか元気で、わたしからの電話をとても喜んでくれ 「今日ね、不思議なことがあったの」と話し始めた。  郊外の渓谷の岩場から落ちそうになったこと、ワサビ農園を見に来た見知らぬ老人に助けられたこと、そのときS君の声が聞こえたこと、老人に自分の危険を知らせてくれたのは成長したS君だったことをお母さんは嬉しそうに話した。  S君が亡くなってからお母さんは精神が不安定になって新興宗教に嵌り、旦那さんとは離婚したという噂を人づてに聞いていたわたしは胸が痛み、調子を合わせるのがやっとだった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加