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母親
Mは一番空いていそうなバスに乗った。車内はガラガラで横向きに坐る優先席に坐った。それは初めて乗る路線で、車窓から見える日没前の古い街並みは黄金色に輝いている。まるで世界が完全であるかのようだ。
何個目かのバス停でお婆さんが乗ってきて隣に座った。
「今日は天気が良かったですねぇ」お婆さんが話しかけてきた。
「ええ、本当に」
「洋館を見にいくの?」
「いえ」
「あらそう。このバスに乗る人は殆ど洋館目的だからてっきりそうだと思って」
「明日引っ越すから最後に街をバスで巡ってみようと思って。子供が小さいときによくやっていたから」
「あら寂しくなるわね。お子さんは今日は来なかったの?」
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