115人が本棚に入れています
本棚に追加
本当は、姿を見せずに遠くから見守るだけのつもりだったが。
多生は『金も体力も尽きたから』という言い訳が出来た事を自分の理由にして、あの夜、聖へと接近したのだ。
間近で聖を見たのは、二十年振りだったが。
遠目でも見惚れるくらいの綺麗な青年になったものだと思っていたが、近くで見る聖は、より一層妖しいまでに美しい男になっていた。
輝くような白皙の美貌は凄味を増し、魔力を宿したかのような瞳は人を魅了する力に溢れており、見る者の心を捕らえて離さない強い引力があった。
そして、嫋やかでしなやかで、だが女とは違う抱き心地の良さそうな肉体は、男の欲望を否応なしに掻き立てた。
この美獣を手に入れられるならば、何を犠牲にしても構わないと思わずにはいられない程の魅力に満ちていた。
“傾国の美女”という徒名で呼ばれているらしいが、さもありならんと圧倒された。
――――それからの数週間は、聖の用意したマンションを仮初の宿にしたが。
聖はこの再会が余程嬉しかったのか、多生に無邪気なほど甘え、素肌を晒して『自分を抱け』と妖しく誘ってきた。
この抗い難い誘惑を、多生は何とか笑顔で躱していたが……正直に言うと、病に侵された重怠い状態の身体でなければ、聖の誘惑には逆らえずに骨の髄まで魅了されていたと思う。
聖には内緒にして、そっとマンションを出ようかと何度も考えたが。
ギリギリまで聖の傍に居たいという欲求には逆らえず、引き留められるのを最初から承知していながら出て行く素振りをして、『咲夜の復讐をする為だ』と尤もらしい大義名分を作り、マンションへ留まった。
関川を見つけ出して始末しようと思っていたのは本当だが……我ながら卑怯な男だとは思うが、やはり最期まで聖の傍に居たかった。
二十年前、あの綺麗な青年に出会った、あの時から……。
「……オレは……」
苦しそうに息を吐きながら、多生は言う。
「holy……」
真壁は、死の気配を纏っている男の姿に動揺しながら、希望的観測を口にした。
最初のコメントを投稿しよう!