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「しゅ、手術したら――そうだ、放射線治療だってある! 現代の医療は進んでいるんだ」
「……」
「癌だとしても、まだ諦める事はないんじゃないのか? 金さえあれば、最先端医療だって幾らでも受けられるだろう。なら、今からでも遅くは――」
「やめときな」
その時、隣に立っていた探偵がポツリと言った。
「ここは終末期医療病棟だ。手術して治るもんなら、とっくに違う方へ回されている。もうこいつは助からん。この後は、痛みを取る為の緩和ケアに入るだけだ」
「緩和ケア?」
「……モルヒネを投与されて、やがて眠るように旅立つだろう」
「そ、そんなっ!」
「こいつは死期を悟ったから、最後に日本へ戻って来たんだ。……ここまで動けただけ奇蹟だと、コイツを診た医者も言っていた。もう充分だろう」
探偵の言葉に、微かに多生は微笑んだ。
そうして、辿々しい言葉を紡ぐ。
「オレの事は――適当に、伝えてくれ。拘留中に死んだでもいいし、釈放されてどこかに消えたでもいい。あいつはどうしようもないクズ野郎だったとでも。ただ、holyには……」
――――どうか、幸せになって欲しい。
そう呟くと、多生は浅い息をつきながら目を閉じた。
真壁は、自分でも理由の分からない涙が頬を伝うのを感じた。
絞り出すような声で、真壁は最後の質問をする。
「あなたは、聖さんの事を愛していたのか?」
「……」
「どうなんだ?」
「yes, always」
目を閉じたまま、多生は最後に応えたのだった。
◇
『半休を取る』と宣言した通り、その後真壁は律義に出社した。
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