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短い悲鳴のような声を上げると、聖は白濁の汁を迸らせてしまった。
多生の、口の中へと。
弛緩した体をくたりと横たえ、羞恥に頬を染める様は、誰よりも可憐な乙女のようだ。
「うぅ……あんた、卑怯だ」
照れ隠しか、ベッドに顔を突っ伏しなら聖は恨み言を言う。
その聖の頭を撫でながら、多生はボソッと呟いた。
「――せっかくの気分を下げるような事は言いたくないが。その、オレは日本に帰って来たばかりで行くところがないんだ。だから、雨風をしのげる小屋のような場所で充分なんだが……」
言いさした先を、聖がピシャリと遮った。
「使ってないマンションがある。家具も揃っているから、当分の間あんたに提供しよう」
「悪い」
日本に帰って来たばかりの男が、どうして聖の居る場所が分かったというのか?
色々な疑問が残ったままだが。
しかし聖は、いつもの慎重さを明後日の方向へ追いやり、警戒感を忘れたかのように微笑んだ。
「いいんだ。あんたにはたくさん世話になったからな。少しだけでも恩返しが出来るならそれで良い。ただ、訊いておきたいことがある。もしかして、誰かに追われているのか?」
「……」
「それとも、他に理由が――」
しかしその疑問は、再び深い口付けで塞がれた。
「んぅ」
舌を絡め合い、仔猫がミルクを舐めるようなピチャピチャという音を立てながら、二人は折り重なってベッドへと沈む。
多生の口付けを受けながら、聖は『はぐらかされた』と思ったが、今はもう快感にだけ身を捧げようと力を抜く。
そうしながら、聖は、遠い過去へと思いを馳せていた。
青菱史郎を受け入れるために、多生の調教を受けていた、あの頃へと。
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