1 Benefactor

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 場所も選ばずに、ただ「近い」という理由だけで、見るからに安っぽいラブホテルへと入った。  休憩か宿泊かを選び、ただ事だけが目的で泊まるような宿など、ここ何年も利用した事がない。 ――――しかも今回、誘ったのは聖の方だ。  いつもならば、そこそこ格式のあるホテルしか使用しない彼にとっては、これは本当に稀な事だ。  自分で金を出すにしても、逆に出させるにしても、こんな安宿など敬遠する。  しかし今の聖には、そんな選り好みなどしている余裕はなかった。  そのくらい、聖は我慢の利かない状態であった。  何故なら、ずっと行方の分からなかった多生が、こうして目の前に現れたのだから。  これが夢で終わる前に、聖は、何がなんでも現実として彼を捕まえておきたかった。  まるで、もう何処にも行かないでと、縋り付く子供のように。 「ああ、ターさん……」  部屋に入ると同時に、聖は、自分より頭一つ高い位置にある多生の首へと両腕を回した。  こんなにあなたを想っていたのだと、情熱を溢れさせるように。 「――ずっと会いたかった」  そのままキスをしようと顔を近づけるが、それは優しく制止された。 「待ちな、聖」 「え?」 「歓迎してくれるのは有り難いが。この通り、臭ぇし汚ねぇだろう? この一ヵ月、全然風呂にも入ってないからな」  確かに、本人が言う通り、その全身からは不快な異臭が漂っていた。  着ている服も、ずっと同じ物だったのだろう。  汗染みで変色し、しかも泥に汚れていて、お世辞にも清潔な格好とは言えない。  それに対して聖は、クスリと笑みを返した。 「なら、一緒にシャワーを浴びよう。昔みたいにさ」  誘い文句に、多生は目を細める。
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