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だが、こんな場所では喫えないと思い至り、渋々ポケットへそれを戻す。
そうしておもむろに、突っ立ったままの男を促した。
「さぁ、訊きたい事があったんだろう?」
「あ、ああ――」
その言葉を受け、真壁は動揺しながらも、疑問を口にした。
「じゃあ、あなたは自分が死ぬことが分かったから日本へ戻ってきて、そこで昔の恋人の無残な死を偶然知ったから、せめてもの贖罪として関川へ復讐をする事にした……というワケなのか?」
「……咲夜には悪いが……それは、ついでだよ」
「なに?」
「そうだな……あんた達には、教えてもいいか……」
そう呟くと、多生は苦しそうに息をつきながら、聖には明かさなかった全ての本心を、初めて吐露した。
◇
多生は己の死期を悟って、日本へ戻って来た。
目的は、最後に聖の無事をこの目で確認したかったからだ。
そう、元々多生が海外へと逃亡した理由は、咲夜ではなく聖にあったのだ。
――――当時、聖が多生に心を寄せ始めている事は、誰の目にも明らかだった。
全身の針を逆立てるヤマアラシのようだった聖が、唯一、多生にだけはその針を引っ込めて、可愛らしい仔猫のように懐いていたからだ。
キスの仕方や、房中術の駆け引きはもちろん、抱かれるための下準備の方法に、事後の肉体の始末の仕方。
多生はあくまで、それらを仕事として聖へ教えたのだが、素直で純真だった聖は、どんどん多生へ惹かれていた。
桜色に頬を染め、目をキラキラさせる聖は誰よりも愛らしく、美しかった。
多生にとっても、これ程までに美しい青年に慕われるのは悪い気はしない。
正直に言うと、かなり嬉しかった。
だが、それは危険を孕んでいた。
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