最終章

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 だが、良い事ばかりでは無かった。  聖と同時期に多生が面倒を見ていた咲夜という青年の方は、じつに悲惨な末路を辿っていた事を知った。  咲夜は、日本人の父とフィリピン人の母との間に産まれた子供だった。幼少期はずっとフィリピンで過ごしたが、その後、母にくっ付いて日本へと来たらしい。  咲夜は、日本語を話すのが苦手で、いつもたどたどしい日本語を喋っては笑われていた。  笑う方は気にも留めないだろうが、笑われる方は堪ったものではない。  その気持ちは、よく分かった。  何故なら多生も、咲夜と同じような身の上であったからだ。  だから多生は、咲夜に対する時は、苦手な日本語ではなく全て英語で話しかけた。  日本語よりも英語の方が得意な多生にシンパシーを感じた咲夜は、殊更多生に懐いたようだった。  だが咲夜は、自分に好意を向けてくる相手であれば、誰にも(なび)くような青年だったので、彼が多生に寄せる好意も『その他大勢』に対するものと同じだと……そう、多生は思っていたのだが。  しかし咲夜は、本気だったらしい。  姿を消した多生を捜し回って、やがて昨夜は破滅していったという。  その事実を知り、多生は言いようのない罪悪感に襲われた。  咲夜の死には、関川という外道が深く係わっていたらしいという情報を得て、多生はその関川について調べ始めた。  ツテも資金も乏しく、命の灯も徐々に消えゆく中、多生に出来る事は限られていたが、それでも調べられるだけは調べ上げた。 ――――そうして、ゾッとするような事実を知ってしまう。  なんと関川は、ジュピタープロダクションを嵌めた上に、社長の御堂聖と反社(青菱史郎)との関わり合いをネタに雁字搦めに縛り上げ、聖から全てを搾り取ろうと策略を練っているらしいという事実を。  相手は、関東最大の指定暴力団だ。  まさかそんな大それた事をと思ったが、関川には勝算があるらしい。  日本を離れていた二十年の間に、ずいぶんと世情は様変わりした。
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