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猫と指輪
私が目を覚ますと、首輪にかけていた鈴のカプセルが開いたままだった。
「あ!真人さんと約束した指輪がない!誰がこのカプセルを開けたんだ?早く探さないと!」
探し回って何ヶ月か経ち、見つからないと諦めかけていたその時、結婚式前夜で幸せなオーラを纏った晴菜さんが公園にやって来た。
「晴菜さんだ!2年ぶりにこの公園に来てくれた。元気そうだし、幸せそうで良かった。あれ?彼女の指に輝いてるのは、もしかして、あの指輪?やっぱり真人さん以外の誰かが…」
私は、ゆっくりと晴菜さんに近づいて、4年前拾ってくれた時と同じように、足首のところへスリスリと甘えてじーっと見つめた。
「どうしたの?怪我しちゃったの?お母さんはどこ?」
4年前と同じように優しく声をかけてくれた。懐かしいケージに入る私。でも、晴菜さんがまた外に出るから嫌な予感がしてついて行ったら、あの男!?まさか、晴菜さん、この男から指輪をもらったの?ダメよ、付いてきて!さっき仲間が真人さんを見かけたらしいの。だから、必ずあの公園に帰って来てくれるはず…約束の時が来たのよ。
——「賢治さん酷すぎる…。お姉ちゃんがいたこともびっくりですけど、賢治さんを調べてくれていたんですね…」
私は真人さんの話を聞いて、今まで真っ白となっていた2年間が、だんだん色付いていくのを感じた。
「やっと思い出した…。ここで怪我をしていたココアを見つけたのがきっかけで、中々話す機会がなかった憧れの先輩である真人さんと話すようになって、優しくて、頼りになる姿を見ていくうちに、どんどん好きになって、そして…」
失われていた記憶の一つ一つが雫となって、瞼から次々と溢れ出す。真人さんは、そんな私を温かく優しく包み込んでくれた。彼の眼にもキラリと光る塊があった。
——明日、私は結婚する。結婚したら、オーシャンビューの新居に、ココアも一緒に暮らす。新婚生活をある程度楽しんだら、子供を作って、思い出の公園に行くんだ。
「何ニヤニヤしてんの、晴菜?」
「あ!ごめん。明日がいよいよ結婚式なんだなぁって思うとワクワクしちゃって」
「それでニヤニヤしてたんだね。本当面白いね、晴菜って」
「真人さん、私、本当に幸せ!」
「僕もだよ!あ、そうだ!ココア、おいで」
ニャー
「ココアの首輪の鈴のカプセル、開けてみてくれる?」
「真人さん、これって…」
ココアが湯川から取り戻してくれた指輪を真人はココアの鈴のカプセルに入れておいた。約束の指輪をやっと渡すことができたと安堵する真人と、記憶が蘇って幸せを取り戻すことができた晴菜は見つめ合って笑った。
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