沈丁花 ~Don't disturb~

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行とキスした次の日は散々だった 藤沢くんは機嫌がすこぶる悪いし 行とはどう接すればいいかわからない 気まずい人間関係を、やまぴーや雅人になんか言えないし もう兎に角 二人が何考えてるかわかんないし、私はそれに対し、どう接すればいいのか、人間関係をちゃんと築いてきていない、陰キャぼっちには、皆目見当がつかないのである はあ… なんとなく、針の筵 行のお別れ会をしたと言っても、その後何日か、彼はシフトに入っていたので、一緒に仕事をしなければならなかった 何となく視線を感じて見上げると、行と目がうっかり合ってしまって、慌てて逸らした …なんてね 心より身体が先に反応したんだ 何故か、視線を逸らさなければならないと、勝手に身体が条件反射的に動いていた 既定の時間に上がるのだが、帰りも同じタイミングで帰らないように、わざと行を避けて行動した 面倒事には巻き込まれたくない ごめんだ …なんて気持ちもあったけど 行を避けて動けば 彼は私を追って来る 何故か、そう思ったから うっかりしてしまった、誘い水 彼は、酔ったときの失敗とか過ちとかを… 水に流す事は なかったことには しないんだと思った 開きかけた好奇心の扉 あなたが見せる世界を、見てみたい そんな私の心情を知ってか知らずか… 行は私に近寄ってくる 「一緒に下まで帰ろうよ」 「ああ、まあ、別に、いいよ…」 何て言いながら、一緒にエレベーターに乗った 扉が閉まり、二人きりになる 「なんで避けるの?」 「え…別に避けてないけど…」 とか言いつつ、思いっきり避けてはいたが、上っ面取り繕った 要約すると、彼の言い分としては 避けられると気まずいから、普通に接してくれよ、って感じだった まあ、気まずいだろうねえ… そう思うと思って、そう言う空気を演出していたんだ 誰だって気まずい状況は嫌だから、その状況を変えたいと思うもんね 試したんだ 「…まあ、わかった」 彼の言い分に従う事にした 「ありがとう、じゃあまたね」 と、行は後ろを振り向きながら、私を見て言って、彼は私の腰とケツの間… でも個人的な感想としては、明らかにケツを、ぽん、と軽く叩かれ、彼は駅に向かって行った 何となく、その手つきとか振る舞いに、手練れを感じた …女の扱いには、慣れてそうだな 彼が転職してから暫く、私は平穏な日々を過ごしていた 藤沢くんが飲みに行こうとか、うるさい事を言ってくる以外は、うん、平穏 行が居なくなってしまえば、私は意識する事もなく、自分からアクションする、つまり連絡する理由もない そこまで執着していなかったんだ けど… 「今日は珍しい人が来るよ」 と、やまぴーが何やらニヤニヤしながら、含みを持たせるような言い方をした 「珍しい人?」 そんな会話を交わしてしばらくした後 ふわっと、香ってきた匂い 「おはようございます」 制服に着替えた彼が またあの香りを纏わせて 目の前に現れた 行… 彼は久しぶりの仲間と、うぇーいとかやって挨拶を交わしていた 「さわちゃん…」 行と目が合う 二重の、丸い瞳 緩くパーマしたような、ツーブロックの髪 整った顔 「また宜しくね」 そう言って肩に優しく触れて来た 「スポットで入る感じなんだよね」 事務所で、行が勤怠を押しながらそう言った スポット それはお店がピンチの時、たまに入ると言う感じ 「そうなんだ」 こうして再び、私は行と一緒に働く事になった 「今度二人で飲みに行こうよ」 ある時、行が仕事に入る前、そんな事を言ってきた 「お店決めておいて」 振り返りながら にこっと微笑んで、私を見ている
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