梅 ~東京LOVER~

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「しゃーない居たるわ」 え… いいの…? まさか、一緒に帰ってくれると思わなかったから… 藤沢くんの事だから、俺は池袋で帰るわ!とか言いそうだったのに… その行動に、驚いてしまって… 首を辛うじて持ち上げて、藤沢くんを見たら 何故か、そわそわしたように身体を動かしながら…口角がほんのり上がっていて、なんとなく嬉しそうな表情で… 私を、その一重の鋭い瞳で、見ていた その態度に なんでそんな急に嬉しそうなんだ…? とか思ったんだ 因みに翌日、猛烈な悪寒と腹痛が数日続いて、病院に行ったら胃腸炎だった 「好きなんだよ、さわちゃんの事が」 同じく仕事を終え、着替えながらそう言う、やまぴー その言葉を言った瞬間だけ…じっ、と私を見つめ、…まるで私の反応を伺うように…静止している それは 藤沢くん、なんで毎回私と飲みに行こうって言うんだろう、と、近くにいたやまぴーになんとなくぼやいた後の、やまぴーの言葉だった 「はあ?なんで?どういう意味…?」 それは絶対ないと思う 「話しかけやすいんじゃない?」 「なにそれ… ねえ、やまぴーも一緒に行こうよ!」 あいつと二人で飲んでも面白くないもんなあ… 「二人で飲み行って来なよ 俺はまだ仕事があるからさー」 嘘つけ さっき勤怠切ってただろがい 「なん「じゃあ行こか」 ぅぐ… 「はいはい…」 私は藤沢くんの後についていった 「お疲れー」 振り返ると、やまぴーはパソコン画面を見ながらそう言っている 絶対逃げたな、あいつめ… そう思いながらやまぴーを恨めしく見た 「お疲れ…」 不貞腐れながら言う 「何処行こか?」 「あー? 何処でもいいよ」 「何なんその言い方」 藤沢くんは笑いながら言う 新宿三丁目の飲み屋街 仕事終わりに飲みに行くとなると、大体三丁目界隈になる 終電も近いこの時間帯は、外を歩いている人もまばらだ 「ほなここにしよか」 そこはチェーン展開している、ちょいお洒落風なイタリアンレストランだった ガラス張りの外観に、壁面にはワインボトルが並んでいる 中はスタイルのいい男性が、サロンを綺麗に着こなして、お酒を運んでいた …こう言うお店、藤沢くんと行くような雰囲気じゃないよな… どうせ行くならもっと男前の人と行きたいわ… とは思ったものの、店に入り、適当につまみを頼み、ビール、ワインと飲んでいった 藤沢くんと飲んでも、何となく楽しくない 男と言うより… なんだろうな、兄弟みたいな感じと言うか… 私に弟がいたら、こんな感じになるんだろうな、とすごく思う だから藤沢くんからは 男の人と喋る時の、ときめきがない だから何となく 喋ってても、飲んでても…楽しくないと思うんだと思う 生産性のない関係 男の友達もいなそうだし 会話もつまんないし カッコよくもなし 学があるわけでもないし 女の子に気が使えるわけでもないし 金を稼げる仕事をしているわけでもないし そこまであげつらったところで、ふと気付く でも …それは私も同じ…同類か…
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