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「じゃ、お疲れ」
横断歩道を渡りながらそう言われ、藤沢くんの後姿を見る
表情は、わからない
そのまま彼は、コンビニの脇を曲がって、自宅があると言っていた方面へ帰って行った
え…
それだけ…？
なん…だったんだ…？
いきなり手繋いだの…
手を繋いで来た理由は結局わからなかったし
聞かなかったけど
まあ、下心で繋いで来たんだろう
『付き合ってなくても、手繋ぐ事くらいある』なんて言うくらいだから、さ…
夜道で
二人きりで歩いていたから
雰囲気に流されたんでしょ…
手を繋いで
感触がよかったら、それはつまり、いけそうだ、って事だけど
自分の家に連れ込もうと、目論んでいたんでしょ…
『手繋ごうや』
なんて、気軽に…
私以外のやつにも、そう言う事言っているんだ
恋人の真似事はするくせに
相変わらず、付き合おうとは言わない
ずるいやつ
私には興味ないよと
いや
私の身体にしか興味ないよと
相変わらず、むかつくやつ
都合いいように使われるから
私も都合良く使う
気ままに連絡を入れる
夜中に呼び出す
何でも頼る
明らかに、うぜーやつがやる事なのに
それでも
必ずレスが来るし
夜中に呼び出しても、会いに来るし
頼ったら、助けてくれた
断ると、思ったのに…
逆に私なら断る案件だし
真夜中に自転車パンクしたから助けてとか、知らんわ！交番行けよ！って話なのにさ
それは優しさ…彼の気遣いなんだろうけど
同時に、下心でもあり
「こんなに色々してるんやし、一度くらいホテル一緒に行ってくれてもいいのにな？」
とか、もはや、ホテル行こうが口癖みたいになってきてるけど
「何無視しとんねん」
「ああ…喋りかけてたの？
ごめん、独り言かと思った」
「はーっ！この女！」
適当にあしらって
身体の関係は、ない
「彼すごくいい人だね…
夜なのに、自転車パンクしたら駆けつけてくれるなんて…」
客観的に見たら、藤沢くんはいい人、に見えるんだろう
私にとっては
自分の都合のいいように動いてくれる、という意味ではいい人
いい人はどうでもいい人
都合のいい人
でも
そう言う関係性が、心地いい
心地いいけれど
あなたは私を恋愛対象にはしない
それは、私もそうなんだ
それって
無関係って言うんだ
学生時代誰かが言ってたな
「俺達ってどういう関係？」
「無関係ー！」
って
やっとその言葉の意味が、わかった
合わせ鏡
目の前にいる、藤沢くんの形をした、もう一人の私が喋りかけて来る
そんな関係
必要？
そんな関係性って
いるのかな？
それって
誰にも愛されてなんかいないよ
そう
私は藤沢くんと
セフレでもない
恋人でもない
強いて言えば何でも言える友達
男女の関係で友情は成立しない
と言う人がいる
そして、それは大抵男の人がそう言うのだ
何故ならば
男の人が女の人に対して、友達、友情と言う感覚がないから
恋人かセフレか、その他
その他とはつまり、友達でもない、他人だ
だとしたら
私は彼にとって他人、でしかないのだ
孤独を埋めるだけの関係性は、そこに愛などなく
虚しいだけ
私は男の人に、ちやほやされたいわけではない
男の人で、寂しさを埋めたいわけではない
唯一無二
私は
私を愛してくれる人がいいし
私が愛する人がいい
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