梅 ~東京LOVER~

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同居人ともおさらばして 行から、元気にしてる?と連絡来て、無視して そして 「私結婚してるしね」 と、目の前の人間に事もなげに言う 「知らんかったなぁ」 「言ってないしね 聞かれてないから 言ってないだけ」 「まあ、そうやな」 とか 頭を掻きながら、おでこや頬を撫でながら 急に忙しなく身体を動かして あなたは言った その時の私は 『俺今彼女作る気ないしなあ』 って言ったあなたを、見返した爽快感しかなくて 『付き合ってなくても手を繋ぐくらいあるじゃん』 って言ったあなたを、仕返ししてやった優越感しかなくて どうでもいい男に構っている暇はないのよ、なんて思っていた キープ女に仕返しされたところで、相手は何とも思わないのにね 都合のいい女が見返したところで、相手は興味もないのにね でも 気付いてしまった どうでもいい人のはずなのに、気にならない人のはずなのに 都合のいい男にしてやるとか 見返してやったとか そう思ってしまう時点で、私は彼に未だに執着しているんだと そんな事に今更気付いた後 知ってしまった 私、多分 藤沢くんの事が好きだったんだと思う 『好きじゃないのに…』 『好きでもないのに』 ってずっと思って来たけど 気にならないなら、どうでもいい人なら 好きとか、嫌いって感情も起こらないんだよね あの頃の私は、それに気付けなかった 私はずっと自分の気持ちに素直になれず 意地を張り続けて来たんだ 無意識に またみんなで飲みに行こ、と言われた時 どうして、私と二人で飲もうよ、って言わなかったんだろう それはあいつが、みんなでと言って来たからだ 彼女ほしいと言われた時 どうして、私は?と言わなかったんだろう それはあいつが、俺今彼女作る気ないしなあ、と言ってきたからだ どうして、彼の心変わりを無視したんだろう それはあいつの、自分勝手な言動にムカついたからだ 好きなんだよ、さわちゃんの事が、って言われた時 どうして、それはないと思う、なんて思ってしまったんだろう それはあいつが、俺今彼女作る気ないしなあ、と言っていたからだ 私の事を好きになってくれない相手を好きになってしまった事 そんな自分が許せないだけだった 下心だけで、私の事が全く好きじゃないってわかるから プライドが傷ついた 飲みに行こう って言われた時 みんな誘った? なんて ほんとは素直じゃなかったんだ 誰も って言われた時 嬉しかったくせに 交換条件がある って言われた時だって わかった って渋々返したけど 本当は嬉しかったんだ 「しゃーない居たるわ」 って言われた時も、そう 「遠回りさせてごめんね」 「新宿からでも、池袋からでも、俺ん家そんな遠くないし、別にええよ」 その優しさが…気遣いが… なんだか嬉しい気持ちになったんだよ 仕方ないのに、一緒に居てくれてありがとう、って… 引き金を 引く覚悟がなかったのは、私だった ねえ 藤沢くん もっと私が自分の気持ちに 素直に 正直になっていれば あの日 撃ち抜く場所を 間違わなければ 未来は変わっていたのかな…? …なんてね あなたのメッセージを見返した時 懐かしい写真を見つけたんだ 私が職場を辞める時 その場にいる職場のみんなで集まって、記念に撮った写真 私、携帯落としちゃったからさあ あの頃みんなと一緒に撮った写真、今の携帯に1、2枚しか残ってなかったんだよね その集合写真には 藤沢くんが私の隣に写っていたんだ 写真見返すまで 忘れていた どういうつもりで あなたが私の隣に来たのか なんで隣になったのか もう今は思い出せない あなたの気持ちも思いも 写真だけじゃ知る由もない 推し量れない でも 今更聞く事は もうしない 下心だけだったとしても そうじゃなかったとしても 或いはその両方でも それでも、私の事 気にしてくれてありがとう 気にかけてくれてありがとう 気に入ってくれてありがとう 好き、だったよ
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