沈丁花 ~Don't disturb~

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デザートプレートも堪能し、お店を出ようとお会計になった時 「ごめん、さわちゃん 割り勘でいい?」 と、行が申し訳なさそうに眉を寄せ、口元を緩め、口角を上げながら言ってきた 「あ…うん、いいよ!」 自分の誕生日、結局、自分で祝うんかい なんて最後のオチに笑えたが 行とデートする時は、基本いつも割り勘だ でもそれに対して、不満に思ったりすることはなかった だって私は恋人じゃないから 奢って貰う義理などない でも 誕生日サプライズされたから…少し期待してしまった自分がいたんだ 私は行に愛されているのかな、なんてね 金で、愛情を測っているわけではない けど 金は目に見えて分かりやすい、愛情のパラメータ 自分の分の食事代を払いながら ふと、藤沢くんを思い出した 藤沢くんは 私と二人で飲みに行く時は、奢ってくれたり、多めに出してくれる そんな行動が、毎回不思議だった 職場の同僚に 恋人でもない人間に カッコつける必要なんかあるんか? って思ったから 奢って貰う義理などないのに でもそれも 下心だと考えたら、イーブンだと思う事にした 迷惑代的な? 「行、いつもいい匂いするよね… なんの香水付けてるの…?」 誕生日デートの締め括り ベッドの中で、腕枕をしてもらいながら すべすべで、しっとりとした胸板に触れながら 前々から気になっていた事を聞いた 「香水じゃなくて、ボディミストだよ」 「へえ…! なんて名前のボディミスト?」 「これ」 行は携帯で画像を見せてくれた それは女の子が好きそうなデザインの、おもちゃのような、輸入雑貨店とかに売ってる、外国製の安いボディミストで… …彼女が付けてるか、彼女と兼用してるんだろうな って、一瞬にしてそんな事が頭に浮かんだけど、考えないようにした 私にとっては、行の匂い、だから 気付いたら、行が教えてくれたボディミストを買って 自分に付けていた 行の匂い 行が、傍にいるみたい… 行とは、私が職場を辞めてから、メッセージのやり取りで会う約束をすることが多かった 行から連絡来ることもあったけど、でも大抵は、私が酔っぱらって、逢いたいと連絡する事の方が多かったように思う と言うか 酔ってなければ 連絡する理由もなかった yuki:今日少し時間が取れそうなんだけど、会おうよ 時間はまた連絡するね ある時珍しく、そんなメッセージを貰ってご機嫌になって、いそいそと支度し始めた けど 何時間たっても彼から連絡は来ず 次第にテンションが下がって ベッドにごろごろとしだした 液晶画面を眺める …日付が変わりそう yuki:急に予定が入っちゃって、今日はやっぱり会えなくなった ごめんね 日付が変わって、そんなメッセージが来た 蔑ろにされる それはセカンド…だかサードだかフォースだかはわからないけど 優先順位が低いと言う事 ファーストじゃないから、それはわかる いいんだ けど 人として 自分から誘っておいて、ドタキャンするのはどうなのか?と思った私は、行に言った 佐和子:あなたの都合で私を振り回すのはやめてよ 好きな人にこんな事言うのは若干、心苦しかったし ファーストじゃないのに 付き合ってもいないのに こんな事を言われて、ウザイと思われるかもしれないけど、でも 言いたい事を言わないのは、もう、やめようと思ったんだ 別にそれで嫌われてもいい、と その後、行から電話だったかメッセージが来て、グチグチ言ってた気がするけど、埋め合わせをする的な感じになったのだ そんなやり取りをして少し経ったある日 その埋め合わせ的な約束を、行は果たしてくれた ちょっと意外だった 私が逆の立場なら、セフレのくせに自己主張するような女、もういいやって切るもんね ま、それが作戦なのかもしれないけど yuki:さわちゃん家に行くよ 餌を貰った犬みたいに、待てが出来ない私は そんな彼のメッセージに浮足立って 玄関の前の鏡で、ああでもない、こうでもないとファッションショーを開催して 丁寧に服のシワをアイロンで伸ばした後、膝上丈の短いスカートをはいた 可愛いって、思ってもらえるかな…
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