沈丁花 ~Don't disturb~

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新宿に着いてからはなんてことはない 腹を満たし 欲を満たす 歌舞伎町のホテル街を歩きながら 今夜は、行とずっと一緒に過ごせると思うと、嬉しくなる 今日は、私だけの行なんだ それと同時に 彼女はこんな彼氏持って、苦労するね、なんて他人事のように思う まあ他人事、なんだけどさ 私には関係のない事だから 当事者じゃないから 彼と付き合うわけでもない そんな未来もない ただ、寂しさを埋めて欲しい、甘えさせて欲しい 甘い蜜を吸いたいだけなんだ もっと早く出逢っていれば…とは思わない 最初からそうなるもんだったんだと思うし だって、彼女がいるのに連絡して、お誘いしてくれる彼は 出会いが早かろうが遅かろうが、きっと変わらない そういう人 少なくとも私には でもいいんだ 私もあなたの優しさにつけ込んで 寂しさを埋めている あなたを利用しているんだから お互い様なんだよ 利害関係の一致 でも そんな事を何度も 何度も繰り返すうちに 「今日で終わりにしよ 彼女いるんだし 彼女と幸せになった方がいいよ」 なんて嘯く はまる事のないガラスの靴を探し求める 私は滑稽な夢見るヒロイン 「じゃあ帰った方がいいの?」 「うん」 「なんでそう言う事いうの?」 答えのない答え わかっているのに わかっているはずなのに なんでそんな事を聞いてしまうんだろう なんで 愛情を求めてしまうんだろう 真夜中の灰かぶり姫(シンデレラ)は 朝が来たら 魔法が解けて 日中は会社の召使い 仕事と家の往復を繰り返し 生活の為だけに生きる ただの廃人 そんな頃、久し振りに藤沢くんと飲みに行った 一度は辞めた職場だったが、やまぴーに、出れる時でいいからどうしてもお願い!と言われて職場にたまに入っていた まあ所謂スポットってやつだ 「何処行こか?」 「あー? 何処でもいいよ」 「何なんその言い方」 藤沢くんは笑いながら言う 「ほなここにしよか」 くだらない話をしながら酒を飲み、話題は行の話になった 「俺あの人嫌いやしな」 藤沢くんは行の事を、あっけらかんとした口調で、はっきりとそう言った 鋭い一重の瞳で なんとなく不機嫌そうに まあ…あんたが嫌いって言うのは…何となくわかるよ でも…あまり彼の事…悪く言わないで欲しいな… なんて思う自分がいるのと同時に 『俺アイツの事嫌いだもん ってかどうでもいい さわちゃんアイツの事好きなの?やめた方がいいよ』 と、行も同じような事を言っていたな…と思った 結局 藤沢くんに同調しても 行の言う通りにしても どっちも私の事を選ばないのに 言いたい事は言うんだ 笑っちゃうね 嫉妬するくせに 詮索するくせに 独占欲を晒すくせに どちらの男とも、幸せになれないなんてさ そんな自分の状況に疲弊した 不毛なのに 未来なんかないのに なんで、二人に関わってしまうんだろう まあそれは、寂しいからなんだけど、さ けんかをやめての、ヒロインはお気楽だ 二人に愛されて 私の場合は 二人は喧嘩するけれど、そこに私への愛は、ない 下心だけだ でも 知ってるのに やめられない お酒を飲んで、現実を忘れようとすればするほど 藤沢くんに連絡してしまう 行に連絡をしてしまう 酒にも彼にも酔ってるから クソガキみたいな恋愛ごっこをしてしまう こんないい歳してフラフラしてさ わかってるのに、酒が入ると、嫉妬しちゃうし、甘えちゃうし、わがままになっちゃう 寂しくなるし孤独になる こうやってシラフに戻れば寂しくもないし、嫉妬もしないし、甘える事もないし、わがままにもならないのに 逢わなきゃいーじゃんって話なんだけどね、結局 でも やっぱ飲むと、寂しくなっちゃうから着いてっちゃうし、連絡しちゃうのかな すげーあほくせえ
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