菜の花 ~あの日 旅立ち~

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おばあちゃん家に着くと、玄関が開いて、おばあちゃんが出迎えてくれた 家に入って、突き当りの六畳間 おじいちゃんの仏壇に手を合わせた 「ただいま」 おじいちゃんに挨拶を済ませると、ダイニングへと向かった おばあちゃんはゆっくりした動きながらも、なんとなく忙しなく 「佐和子ちゃん、お腹空いたでしょ?ご飯食べよ」 と言った 焼き鮭と、インスタントの味噌汁 それに、白いご飯 おばあちゃんは料理が嫌いなのか、苦手なのか、料理を作らない 作っても、簡単な物 食事を摂りながら 「おばあちゃん心配で心配で 毎日あなたが夢に出てくるのよ」 と言われた 母親から おばあちゃんが心配している と連絡を貰ったから おばあちゃんがそう言うのは知っていた でも、仕事に、漫画制作に、忙しなくしていた私は 一分一秒でも時間が惜しかった それでも、なんとか時間を作り、今日、こうして東京から、おばあちゃん家に来たのだ 夜も更け、叔母さんが会社から帰宅したらしい 玄関から物音がした 叔母さん、私にとったら、お母さんの妹 つまり、私は叔母さんにとっては、姪にあたる 幼い頃から、「みっこちゃん」と叔母さんを呼び、親しくしていた 独りで暮らしていた、広いアパートにも、何度も遊びに行ったりもした でも今、叔母さんはそのアパートを引き払い、実家、まあ私にしたら、おばあちゃん家なんだけど… そこで、おばあちゃんと一緒に暮らしている 「みっこちゃん、お邪魔してます」 丁度お風呂上がりで、髪の濡れたみっこちゃんが、まん丸の、二重で、大きな瞳で私を見た 「佐和子ちゃん、久し振り ゆっくりしていってね」 みっこちゃんはそう言うと、ダイニングに来ることはなく、階段を登って自室へと向かった おばあちゃんと、みっこちゃんが 仲良くない…と言うのか、関係が良くないと言うのは知っている そして、私も…母と仲が良くないから、なんとなく…そう言う事情はわかる 暫くすると 「佐和子ちゃん、ちょっといい?」 と、みっこちゃんの声が聞こえたので、廊下に出た 「漫画道具持っていく?」 え… 「お姉ちゃん…佐和子ちゃんのお母さんから聞いたよ 東京で漫画家目指してるんだって?」 お母さん… 「うん…」 みっこちゃんが昔、漫画家を目指していたのは…知っている 私が小学校高学年の頃、みっこちゃんのアパートで、一度、漫画道具や作品を見せて貰った事があったから 二人で一緒に二階へと上がり みっこちゃんは押し入れの一番上の扉から、漫画道具を取り出すと、私に渡してきた それは少し焼けているけれど、まだ使えそうなケント紙…まあ原稿用紙だ しかも枚数的に、100枚はゆうに超えてる… …これを、全部私に… 更に、必要だったらこれも持っていって、と カートンの鉛筆、ペン軸、トレーシングペーパー、スクリーントーンも渡された 「えー!すごい… ありがとう…」 どれも時が経ち、年季が入ってはいたが まだまだ使えそう 物持ちがいいな… と、思ったところで 気付く 物持ちがいいんじゃない 大切に… していたんだ… 今まで ずっと 「本当にいいの…?」 見つめた彼女の瞳 勿論 全て自前のものがある 必要なら、買える だから、欲しかったわけではない でも 漫画道具を渡してくる彼女の想いを、託された気持ちになったんだ 受け取らなければ…ならないと 「うん もう、私には… 必要ないからさっ…」 「…そか」
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