菜の花 ~あの日 旅立ち~

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「…私もさ、佐和子ちゃんみたいに漫画家を目指してた時があって 東京の専門学校に行きたかったんだよね」 東京の専門学校に…知らなかった そうだったんだ 「それで、お母さんに、まあ、佐和子ちゃんのおばあちゃんに言ったんだけど、反対されて… その後は、地元の会社に就職したんだけどさ 未練があったんだよね… ずっと だから今まで取っておいたんだと、思う でも、佐和子ちゃんが使えるなら 佐和子ちゃんが使って」 「…ありがとう! ガンガン使わせてもらうね!」 そう言って、私は笑った 本当は、辛いだろう この道具を渡す事には、勇気がいるはずなんだ だって ずっと、何十年も 今の今まで大事に、大切に取って置いたものなんだから 引っ越しのタイミングとかで、何度も捨てるきっかけとか、状況とか、あったんじゃないかな それでも捨てなかった 肌身離さず、引っ越しの度に、持ち歩いていたんだ こうして、実家に戻って来ても尚、押し入れの一番上の棚にしまっておいたんだから それを手放そうと思えた、勇気 「東京で頑張ってね」 そう言うから、私は思わず反射的に返していた 「必ず漫画家になる! 掲載されたら絶対連絡するから」 妹さんの未練の分まで… そう心に誓って 本当は、この街で押しつぶされそうなくらい、苦しい 漫画家になれるかなんてまだわからない アルバイトで、フリーターで、将来の保証もなにもなくて、挙句、4年付き合った彼氏には浮気され、今は女と楽しそうで、地元帰ってきても、友達はみんな結婚して出産してて… 負け組だ、どん底だ、苦しい以外形容しようがない きっと今、私が消えてしまっても、誰も気付かないんじゃないかなって思ったりする いっそ消えた方が楽なのかなって 浮気した彼が言うように、私が消えても、誰も悲しまないんじゃないかなってね でもそれと共に思うんだ 死にたいくらい苦しいなら、死ぬ気でやればいいんじゃないかって もうメンタル弱いのか強いのかバカなのかわからないよ そうやって気持ちすり減らしてやってると、疲れて、羽休めたくなって 暖かくて、安らげる、誰かの腕の中で眠りたくなる そんな時に 『実家帰ってくれば』 とか 『おばあちゃん心配で心配で 毎日あなたが夢に出てくるのよ』 って言われると 私はなんて親不孝者なんだって情けなくなる 心配ばかり、迷惑ばかりかけて バカな子供でごめなさい 言ってしまいそうになる でもそれを言ったら、余計心配するでしょう? 今以上に、悲しい顔をして欲しくないんだよ 本当は甘えてしまいたい そうしたら楽なのに けどそれを言われてしまったら、余計帰れなくなる 私は大丈夫だよ、と言わなきゃならない だからそのためにも私は、漫画家にならなきゃならない いや、漫画家にはなれると思うんだ 根拠ない自信というのか、過信というか、そういうのが私の中にはあって こんだけ頑張ってんだから、漫画家になれないわけないって まあデビューしてから言えって話だ 私を応援してくれる、全ての人の為にも 私を待っていてくれる、人の為にも そして私自身のためにも 必ず
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