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そんな母親は
私が大好きな絵を描いていても
「あんた絵ばっか描いて…勉強しなさいよ!」
と、毎日のように言ってきた
幼心に
母親は、画家に成りたいと言う私を、認めてはくれないんだろうな…なんて思ったんだ
案の定
「お母さん聞いて!!
私美大行く!」
と言う私の言葉も
「絵なんか独学で勉強出来るんだから学校なんか行く必要ないでしょ
美大や美術系の学校には行かせないから」
と言って、美大や美術系の専門学校や短大には行かせてくれなかったし
「この世に絵で生計を立てたい人がどれだけいると思ってんのよ
あんたに絵描きなんて無理」
と言って、絵が好きな私を、認めてくれなかったし、否定された
そして
「あー、そう!もう勝手にしろ!
金輪際何があっても面倒を見ないから!
大学行ったのが本当に無駄だったね
実家を頼ってくるんじゃないよ!」
そう言われて、私は廃れた田舎町を飛び出した
東京新宿
そこが、今の私の居場所
「のんちゃんおはよ!」
「おはよ!」
のんちゃんは、私のあだ名
希望(のぞみ)だから、のんちゃん
上京後の主な収入源は、アルバイト
時給1200円の居酒屋の仕事だ
ホールとキッチンに分かれているが、私はホール担当を任されていた
お昼の営業が始まる前までに準備を終わらせる
最近の居酒屋はランチ営業もしているのだ
簡単で誰でも出来る単純作業を、黙々とこなす
怒涛のランチタイムが終わると、やっと休憩
夜の営業の準備を始める
それが終わりを迎えるころ、夜の部の人が出勤してくるのだ
そんな人達の中
デシャップから、勤怠のある事務所の方に向かってくる彼は、俯いて元気がないように見える
「藤沢さん、テンション低くないですか?」
「なにが?」
不機嫌そうな返答に、一瞬委縮する
「いや…なんか、何となく…」
「あー、…昨日上野で、蓮見て来て…」
え!
それって…!
「クロードモネ展行ったんですか!?」
「え」
「いいなあ~!クロードモネの、蓮の花、有名ですよね!
私も見に行きた~い!
一度でいいから肉眼で本物を見て見たくて!
期間展だから行きたいって思ってるんですけど、一人で見に行くの…なんか寂しいし心細いし、どうせなら誰かと一緒に感動を味わいたいじゃないですか!…でも絵に興味ある人とか…周りにいなくて…」
「ほなクロードモネ展一緒に行こうや」
「え…いいんですか!?」
「ええよ」
「っええ!わーい!やったあ!
私…
いつか、小高い山の上にある家とかで、海の景色を見ながら、お酒を飲んで硬いパンをかじって、油絵を描いて生きていきたいなあ…なんて思ってるんです
まあ、ささやかな夢…ですね」
「え、なにその夢…妄想?」
「妄想じゃないですっ!」
「あ、そう…」
「じゃ、後で予定決めましょう!スケジュール連絡またしますね!」
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