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「本当は…カーネーション…
嫌いな花なんです」
「え?」
「けど…一番好きな花なんですよ!」
「…どう言う事?」
藤沢さんは半笑いで私を見て、頭を掻いていた
「私…
母親、嫌いなんです
母の日、カーネーションとか渡したりするじゃないですか…
でもその日って、母とのいい思い出が…ないから」
母の日…だけじゃないんだ、本当は…
就職の時も、大学の時も、高校の時も…
ううん、保育園の頃から…
ずっと嫌いだった
「いつか、そんな母親でも、好きになれる日が来るかな…とか
ちょっと距離が近づいて、仲良くなれるかも、好きになれるかも…って思うんだけど…
ダメで…
また心の距離が離れていく…」
それは
寄せては返す、波のようで…
「『親孝行しなよ』
『お母さんと仲いいよ』
って言う人達の言葉を聞くと…
私も母親と仲良くしないとならないのかな…とか、ここまで育ててもらったんだから、親孝行しないと…とか…
いい大人なんだから、お母さん嫌いなんて言っている自分って…ガキだよなあ…なんて思って…
でも、嫌いって…好きの裏返しなんですよね、結局
だから…
いつか、母親が好きになれたらいいなって
いや…
本当は好きだから、嫌いになっちゃったのかもしれないけど…
また好きになれたらいいなと思って…
って…
そんな作品…いいイメージなかったですね…!
お店に飾るのに…
やっぱ変えます!」
「いや、ええよ」
「でも…」
「希望ちゃんがカーネーションを見た時
親の嫌な思い出やなくて
自分の作品が売れたって…
いい思い出として、いつか思い出すやん」
藤沢さん…
思わず藤沢さんを見る
「うちの店来て、な?」
あ!そう言う事…
「なんだ…ははっ
うん、でも食べに行きたいです!いつか藤沢さんのお店!」
「それもいいけど、働きに来て」
そう言って藤沢さんは笑った
「ああー!なるほど…!
わかりました!
お互い、頑張りましょうね!
私は…画家としてやっていけるか、まだわからないけど…」
「小高い山の上にある家とかで、海の景色を見ながら、お酒を飲んで硬いパンをかじって、油絵を描いて生きていきたい、って言う夢があるんやろ?」
「え…はい…」
「夢を思い描く事が出来るなら、実現できる
それは夢じゃなしに、目標やから」
夢じゃなくて
目標…
いつか…
自分の思い描いた夢を…いや、目標を叶えることが…出来るのかな…
…違う、叶えるんじゃない
掴むんだ
目標なんだから
「そうですね
いつか…必ず」
カーネーションは送らない
手紙も書かない
それは母親が嫌いとかそう言うんじゃなくて
送りたいと思わないから
書きたいと思わないから
いつの日か
大好きなお母さんに
自分の意志で
自分の考えで
カーネーションを
手紙を
送りたいと
書きたいと
思える時が来るまで
カフェレストランを出て、駅に向かって歩みを進めようとした時
また、ふと思い出す
そう言えば藤沢さん…
一回、クロードモネ展見たんだよね?
『あー、…昨日上野で、蓮見て来て…』
なんであの時、蓮って言ったんだ…?
さっき
絵には睡蓮って、書いてあった
見たなら…睡蓮って、知ってる…はずだよね?
もしかして…
本当は見に行って…ない?
なんで?
私に…気を遣った…?
「藤沢さん!」
「ん?」
「クロードモネ展、今日、本当は初めて…見た…とか?」
「まあ、そやな」
やっぱり…
「…すみません
気を遣ってくれたんですよね!?
あの時…私が行きたいとか言ったから…!絵とか本当は興味なかったですよね!?」
「ああ、別にええよ
今日特に予定なかったし
絵の事は詳しくないけど、漫画は好きや…まあ、見るし」
「そう…ですか」
あれ…
じゃあ…
「上野に…なんの蓮、見に行ったんですか?」
「え?
上野の不忍池知らん?
そこに今蓮咲いてんねん」
「不忍池?
初めて聞きました」
「マジで?
ほな行って見る?」
「はい!」
「あ、でももう夕方やから、花、咲いてへんか…」
「あ…そうなんですか」
「夕方には花閉じるから…
花の絵…描いてるんやないん?」
「いやあ…蓮の絵は描いた事、なくて…」
「そうなんや
んー…
ほな…もう帰ろうか」
「そう…ですね!」
振り返った、美術館
モネが晩年
20年も描き続けた絵を
私も、いつか描くんだ
画家として
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