菖蒲 ~大丈夫だよ~

3/7
前へ
/84ページ
次へ
そんな恵まれた環境で育ててもらったのに…漫画家で生きていきたいだなんて… もったいな… でもドラ息子…じゃないけど 恵まれた家庭で育った子供って、大体そんなもんだよな 『彫金の学校は、趣味で来たようなもんだから 仕事は、実家の不動産を継ぐと思う』 彫金の学校に来ていた人で、そんな人もいたし 大学卒業してから、彫金の専門来てる人もいたし 留学帰りで、彫金の専門来てる人もいたし 彫金の学校は、金銭的に余裕のある人がちらほらいた 同時に 大学卒業しても専門に来ているやつや 留学した後も、専門に来ているやつも 就職しない口実なのかも 就職を先延ばしにしているだけなのかも そんな事を思ったんだ つまり 暇と金があるやつ 俺は 高校中退して 離れて暮らすオヤジの仕事の手伝いをたまにしながら、ふらふらしていて 20歳近くなった時 周りが社会人として仕事しているのを見て 何か手に職をつけないと、就職先ないかも…と思ったんだ だからオヤジに頼んで、彫金の学校に行った 就職するために オヤジだって、金があったわけではないと思う けど、出してくれた そんな彫金の学校を出た後は 彫金の仕事に現在就いているのかと言われたら…御覧のあり様 漫画家と言う夢を持つのも、抱くのもいいと思う でも 「今、漫画家で稼げてるの?」 「えっ… まだ…絵だけでは…稼げてないけど…」 ほら やっぱり 「何か宣伝とかしてるの?漫画の」 「SNSで創作用のアカウント作ったり、ホームページ作って、作品の情報載せたり…商業誌に載せていない、オリジナルの作品を載せたりも…たまにする 漫画が商業誌面に掲載された時は、知り合いや友達や、携帯に連絡先載っている人には、片っ端から連絡して、雑誌買ってねとか、葉書書いてね!とかやってるけど…」 けど…売れないのか 当たり前だろ 無名の作家が売れるわけないんだ 仮に、作品を買ってくれる人なんか、極々極々限られた人だけだ いないに等しい それこそ、お前の周りの身内くらいだろう 情けだよ 同情されてムカつかないのか 恥ずかしくないのか それは売れているとは言わない 作家とは言わない 「売れてもいないのに漫画家なんて、プロなんて 俺なら恥ずかしくて名乗れないな」 そう言うと彼女はフォークを持ったまま、目を丸くして俺を見た その瞳は、さっき、漫画の話を語っていた時のような、キラキラと光を放っている瞳には見えない 驚愕 驚いている表情だ え? 寧ろ今まで気付いてなかったの…? 絵だけで稼げていないのに、漫画家とか、プロとか言えちゃう自分が… 恥ずかしくなかったの? どんだけ奢ってるの…? いや、奢っているというより… どんだけ自分に自信があるんだ… 目を少し伏せ、フォークをゆっくり置いた彼女の手は、握りこぶしを作っていた 目が合う
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加