菖蒲 ~大丈夫だよ~

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「描いた漫画が売れて、金銭が発生する それは趣味じゃなく、仕事と言えるから漫画家と名乗っているんだよ」 彼女は俺をじっと見つめて、真顔で言って来る それは… そうなのかも…しれないけど… 「君の言う漫画家って、プロって、そんなものなの? だとしたら漫画家の、プロの、ハードル低すぎでしょ」 「え…」 「漫画家になれたら、プロになれたら…それでいいの?」 肩書だけで満足しちゃうタイプ? そんなもの持っていたって、使えないなら役に立たないよ 「今の君は漫画家として、プロとして、やっとスタートラインに立てただけでしょ」 漫画家になった事が、プロになった事が ゴールじゃないだろ 志が、低すぎる 「何を目標、目的にするかによって変わるけど でも 漫画家って言うなら プロって言うなら もっと高みを目指せよ そして 自分で名乗る前に 相手から 絵を描いてるんだよねって 漫画家なんだってねって 言って貰える作家に そう言われる作家に、なれよ」 そっちのほうが かっこいいだろ…? 青山で、展示会をした日を思い出した 「誰も来ないっすね…」 「学生…しかも名もない作家なんて、そんなもんだよ」 丹精込めて作った作品も こだわって作った作品も 時間をかけて作った作品も 作り手の感性を理解している人 理解してくれる人は、どのくらいいるんだろう 商業として作品を作る場合は 時間より、こだわりより、生産性を上げる事 納期に間に合わせる事 それは個人製作の時でもそうだけれど 会社に従属して、会社員として、彫金の業務にあたる場合は 時間をかけたり、こだわったり、まあ、ある程度のこだわりは大事だけど…言ってられない それが嫌な人は、フリーで彫金の仕事をすればいいだけ でも フリーランスは 仕事がなければ フリーターだ 俺は そんな事は出来ないし… もっと言うなら そんな才能は、ない 彫金の専門を出たからって みんながみんな職人になるわけではないし なれるわけでも…ないし 職人になりたい人ばかりでもない 俺も職人になりたいなあ…とは思ったけど でも、職人の仕事の求人は、地方が多かったし だけど、俺は地元がよかったし だって、地元の方が友達や知り合いがいるし どうせ、兄弟はいるけど、結局俺が長男だし かあちゃん独りだから、結局俺しかいないし 地元で求人のあった、ジュエリーの販売職に就いた その仕事も、本社が中部にあって 出張で中部に行く事はあったけど 転勤で中部に配属になるって言われて、転勤は嫌だったから会社を辞めたんだ そして 結局は、誰でもできる、こなせる仕事を転々と ふらふら そんな人生を歩んできている
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