梅 ~東京LOVER~

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親睦会も盛り上がりを見せた頃 「お疲れさんです」 と言って現れた、遅れて来た彼 「おー、待ってたよ!」 「こっちこっち」 のろのろと、暗がりから気だるそうに歩いてきた彼は 上下どどめ色のような、よくわからない色をしたスウェットだった え… なんでそんな田舎くさい恰好…それに、異性もいて、みんなで親睦を深める会だってのに…スウェットって… なんか変なやつ… 「藤沢(ふじさわ)です」 そう自己紹介した、遅れて来た彼は、場を盛り上げるでもなく、椅子に座ってお酒を飲んでいただけで 何か喋るでもなく 話しかけられても、何となくぶっきらぼうに、つっけんどんに話すだけで 終始静かにその場を過ごしていた うわぁ… タイプじゃない…こういう空気読めないやつ… ここにいて楽しいのかな… つまんないの? でもそれはないよね、誘われて、結局来てるんだから… 生田さんみたいに、この場を盛り上げるために仕切るわけでもない やまぴーみたいに、色々な人に気を遣えるわけでもない いじられて、雅人くんみたいに、照れたように笑いながら乗ってくるわけでもなく、不愛想 もう、そんなんじゃ… 自分で積極的に話さなきゃ、君、永遠に輪に入れないよ…? そんなんで職場で過ごしていくの、辛くない…? 「飲んでるの?」 輪に入れていない彼に私は声をかけた やまぴーみたいに、私はいじる事が出来ないから、普通の他愛ない世間話的な声かけをした 「へー、地元琵琶湖があるところなんだねー」 特に興味もない、内容のない会話 でも、それからというもの、彼は職場に馴染んでいったのか、色々な人と会話するようになっていった なんとなくそんな様子を、微笑ましい気分で見ていたんだ 働いてから一月ほど経つと、職場の仲間との馴れ合いも増え 仕事終わり、飲みに行く事も増えた って言っても、行くメンバーは大体固定メンバー…いつメンで 行く場所も、大体決まっていた 黄色い看板に、鳥の絵が描かれた、焼き鳥屋 七輪のようなもので、頼んだ料理を目の前で焼いて食べる、水産料理屋 仕事終わりに行くから、確かにその通りの名前だな…と言う、酒場 今日もそんな居酒屋で、仕事終わりに、同期の同僚と飲んでいた 「俺関西出身だけど、こいつ、なまり直してないだけだから」 やまぴーが意地悪そうな顔をして、藤沢くんに言った 「別にええやん」 藤沢くんはそう言いながら、不機嫌そうにビールをあおった え、やまぴー関西出身だったんだ 全然わからなかったわ 出逢った頃、やまぴーは標準語と言うのか、共通語と言うのか、私が聞いていて違和感のない喋り方だったから、全くもって関東だと思ってた …でも 私が知っているヘアメイクさんで京都出身の人がいるが、その人が言っていたっけ… 久しぶりに地元帰ったら、何その言葉遣い、気色悪っ、って友達に言われた と そのヘアメイクさんは、出逢った頃から関西弁でずっと喋っていて、その関西弁自体に違和感はなかったけど その人の地元の友達は、上京した友達の事をそう言う風に見るのか、と思ったりもしたのだ つまり、関東弁的な言葉遣いを使う瞬間が多分あって、気色悪いと思ったという事なのだ 私は関東出身だから、その微妙な言葉遣いの違いがわからなかった そしてその地元の友達は、関東弁と言うのか、それが気色悪っ、まあキモイと感じると言う事だ なまりを直してないだけ、と指摘された藤沢くんは 多分、その地元のタイプの人間なんだろう
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