梅 ~東京LOVER~

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仕事終わり 新宿三丁目駅 新宿五丁目東交差点が近くに見える、天井が広くて、何となく開放感のある、カジュアルなイタリアンレストランで、そのお別れ会的なのは行われた お別れ会、なんて言ってるけど湿っぽいものでもなく みんなで飲んで騒ぎましょう 的な感じで、乾杯、とした後は各々話に花を咲かせていた 二次会は、残ったメンバーでカラオケに行った ぐだぐだとカラオケをしていたら、気付くと夜中の三時過ぎ 周りの人を見ると、もう疲れ切ってだらけている 主役の行まで寝ていた ちょっとちょっと… 「寝てないで、起きてよー!」 そう言って行の耳元で叫んだ ふわっと香ってきた、香水のような香り …あ いい匂い… あの頃の…幸せな香り… 思わず誘われて 耳に 口付けをした 「っは…」 その瞬間、自分がとんでもない事をしてしまったと気付いて、一気に酔いが醒める 思い切り顔を上げると、席を一人分空けて、何事もなかったかのようにやり過ごした …ヤバイ… やってしまった… ちらっと行を見ると、目が覚めたのか起き上がっていた ひっ 視線を逸らして前に向き直る ヤバイヤバイ… 酔っていたとはいえ、これはマズイ… 相手恋人いるのに… うわあ申し訳なさすぎる… 最悪だ… ごめんなさい! どうか気付いていませんように…! 誰が言ったか忘れたが、二次会のカラオケもお開きとなり、解散という流れになった 「生田さんまた飲みましょ」 「お疲れさんです」 やまぴーや藤沢くんが帰っていく そんな様子を見ながら、私も、お疲れ様、と言って自宅へ帰ろうと歩みを進めた 「さわちゃん」 さわちゃん、と言うのは私のあだ名 佐和子だから、さわちゃん 自分のあだ名を呼ばれ 歩みを進めていた足が動揺で止まる この声… 恐る恐る振り返る 「俺もう酔っちゃったよ…」 行… 暗めのジーンズに、灰色のニットと、真っ白いジージャンを着た行が、近づいてくる 「そっか…早く帰ろう」 私は歩みを進めながら言う 行はそんな私について来た 「休めるとこ行こう?」 は…? 「なんでだよ!行かないよ! そんな酔ってるなら早く帰ろう! 私はもう帰るよ」 そう言って、新宿三丁目北交差点を右折した 「えええ…だって、さわちゃんからキスしてきたんだよ…?」 はっ…! それは… あの、キスの事だよね… ああ… バレてる… 言い逃れ出来ない 酔っちゃった、とか言いながら、クリっとした大きな目は、意識がハッキリとしているように見える 本当は…そんな酔ってないんじゃ…? 実は しっかりしているんじゃ…? 新宿五丁目交差点を右へ曲がる 「ねえ待ってよ」 そんな行を無視して、じゃあね、と手を上げ挨拶をした時 腕を引っ張られ、強い力で抱きしめてきた後 「えー、やだ、帰らないで」 とか言ってきた 絡みついて来る行を必死に宥めながら、身体を離そうとした瞬間 顎をがっしり力強い手で掴まれ 思い切りキスをされた っ…うわあ! 磁石のようにくっついている唇と唇 「んんーっ!んー!」 必死に声を出して身体を離そうと抵抗するが、頭をしっかり持たれ、びくともしない 強い…力… 離れない… 歩道の端 朝方の新宿 通勤通学の人が疎らに行き交う足音が聞こえる中 滑稽な光景 恥ずかしい なんでだ なんでこんなことになってしまったんだ… 自業自得なんだけど どうしょうもないクズ人間だと、現実の自分に疲弊する 抵抗を諦めて、しばらくして、相手の力が緩んだので勢いよく離れた 「なにするの…? 何のキスだよ」 動揺しながら、くりっとした丸い二重の瞳を見た 「あ、…ごめん」 ごめんって何… 彼は困った顔をして謝ってはいたが、なんとなく半笑いと言うか、笑ってるように見えた それから 一杯飲もうよ 飲まない 漫喫行こうよ 行かない の、押し問答を繰り返して、ようやく行をタクシーに詰め込む事に成功した私は、自宅に帰った ああ… 疲れた… 何時だと思ってんだ もう朝だよ… ちょっとキスしたくらいで そんな迫ってこないでよ …恋人、いるくせに 同僚だと、友達だと、思っていたのに… 意識しない方が無理だわ なんてね それは相手も同じ お互い様か はあ… ほんとバカ こんな自分がいやになる 自業自得 …だけど キスしたのに、気付いていたんだとしても 水に流してくれたらいいじゃん… 何事もなかったことにしてくれてもいいじゃん… 酔った勢いで、そうなる事だって…あるじゃん… わかるでしょ? わからないかな… 寂しく、ないもんね なかったことに されてなかった事にしてくれないと… 私、独りぼっちだからさ 寂しいからさ 刹那とわかっているのに 恋人になれないと分かっているのに 求めてしまうよ…?
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