梅 ~東京LOVER~

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翌日出勤した後 勤怠を切ろうと事務所的な所に行った時、藤沢くんが遠目に見えたので 近づきながら挨拶をした 「おはよー」 「昨日生田さんと、飲み会の帰り一緒に居たやんな?」 え… 開口一番 挨拶もなく 座りながらパソコン画面を見ていた彼が、そう言って私の方を見上げ 一重の鋭い瞳で、真顔で 私を見た なんとなく、怒っているような、そんな不穏な空気 血の気が引く その言葉が今、私の身体にピッタリな状態で起こっている感じがした なんで… なんで…藤沢くんがそれ、知ってるの…? だってその言い方 明らかに、昨日私と行が一緒にいた現場を 彼は目撃していたと言う事だから… そして、見ていたなら… もしかしたら …キス、していた場面も… そう考えたら 何故タイミング良すぎるほどに しかも、よりによって藤沢くんが見てるんだ!? と、その現実に起こっている出来事を信じたくない気持ちになった 相当恥ずかしすぎる って思いを瞬時に頭に巡らせて動揺してしまい、私はその後なんて答えたのか、思い出せない え、なんで?とか、なにが?とか、別に、とか…言ったのかな… 覚えてないけど でも事実は 理由は答えなかった そこは覚えてる その後の勤務中も、彼は終始不機嫌そうで… 機嫌が悪いから面倒で、ご機嫌取りをしようと、藤沢くんに業務内容について質問した瞬間があったんだ そしたら 「なんとかさんに聞いて」 とか冷たい態度で、そう言ったんだ お前がそんな態度だから、こっちは気を遣って言ったのに、その言い方とか態度に段々腹が立ってきたのだ なんで私が質問に答えなかっただけで、不愛想な態度取るのか意味わかんないし、面倒だなと思ったし… と言うか それ以前に… 何故そんな事を藤沢くんが聞くんだ?って所が怖かったというか… だって、私と行が、飲み会の後一緒に居たか居ないかなんて、藤沢くんにとってどうでもいい事のはず 関係のない事 それを 『昨日生田さんと、飲み会の帰り一緒に居たやんな?』 なんて言い方して 詮索してくる感じが…怖かったんだ 何故? 目的は? 真意は? わからない だって 現場を見ていたなら、私と行が一緒にいた、と言うのは知っているはずなのに… 仮にそうじゃなかったとしても 誰かから聞いたか… 昨日別れ際 私は藤沢くんが、先に帰って行くのを見ていたんだ だから、私と行が一緒にいた事を、藤沢くんが知るわけがないんだ ないんだけど… そんな感じ…しなかった… その表情 雰囲気 口調… 挨拶もなく、開口一番に… 何かを知っているかのような口振り…含み… そう言う匂いを…感じた 私と行が一緒にいた場面を、見てたような感じ… しかもタチ悪いのが それをわざわざ私に伝えて来る事だ 直接本人に聞いてくる神経 聞く必要があるのか 知る必要があるのか 野暮な事じゃないのか 知らなくていいことだって 聞かなくていいことだって 言わなくていいことだって あるんじゃないのか 何故それがわからないのか なんで なんで私は、藤沢くんにそんな事を言われなきゃならないんだ…? そして そんな事を言われて 何故私は動揺している? あんたにとって 私と行の関係性なんか どうでもいい事のはず 関係のない事 そうでしょ? それなのに、そんな言い方して 私に聞いてきて… 変な事言わないでよ あなたのこと 好きじゃないのに… そんなある日 藤沢くんから、仕事帰り、飲みに誘われたので、飲みに行く事にした 飲んで喋って 街を歩いていた途中 歌舞伎町にある神社を見かけた私 「たまに、そこの神社行くんだよね 静かで落ち着くんだ」 と、街の喧騒に疲れた時など、独りで黄昏れる、お気に入りの場所をうっかり言ってしまった事が原因で 「へー、そうなんや」 じゃあ、行こうと、藤沢くんに言われ、歌舞伎町にある神社に行く事になった 新宿歌舞伎町 今は芸人を多く輩出する事務所になっている、建物の隣 近くにはゴールデン街があるその場所は 11月は酉の市も行われる神社で、その時期は大勢の人で賑わう けど普段は そして終電も終わった夜は 人気も少なく 静寂に包まれている e00d9098-4b9b-4793-84bf-6e5fa7cfba11
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