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episode1
「ごめん今忙しいからその件はおいおい話そう」
「あ、はい。よろしくお願いします」
おいおいって言いますけどその話になったこと今までありますか?
内心ではそう思いながら、エレベーターに乗って閉まるボタンを連打している佐渡部長に笑顔で返事をして見送った。
今日も私は聞き分けのいい部下を演じている。
桜井 小春(28歳)
これといった山なし谷なし平凡な人生28年目
とある企業のブライダル事業部でブライダルプランナーとして勤務している。
今、話していた相手はうちの支店のブライダル事業部部長 佐渡 浩文(52歳)
本部のホテル事業部から数年前に移動してきたのだけれど
それはもう考えが凝り固まっていて、理不尽極まりない人。
以前からスタッフの補充と休みの確保について改善してもらえないかと訴えてはいるものの、さっきのようにいさなれて一向に具体的な話にならず困っている。
ブライダル業界は華やかに見えるけど実は体力勝負でなかなかの激務だ。
私の務めている会社は男女比も4:6となっていて、女性は結婚や出産で退職する人も多い。
うちの支店も慢性的な人手不足で既存のスタッフは休みなく働いているというわけだ。
「小春どうだったー?」
デスクに戻ると後ろの席から期待の眼差しを私に向けている彼女は同期の光井 彩音(28歳)
「今回もダメ。また忙しいふりして流された」
「またかぁぁ!終わらない肌荒れ……このままじゃ私たち過労で倒れるってぇ」
彩音はバタンと机に項垂れて意気消沈している。
私もパソコンに貼ってある仕事リストを見て自然と深い溜息を吐いた。
今日も残業確定です。
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