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蓮さんの元カレ
「へっ……?」
風呂上り、生温い風の吹くベランダで缶ビールをプシュッと開けた所だった。
「あの、もう1度お願いします。」
驚きながらも濡れた感触がして視線を移すと、左手が噴き出したビールと泡に塗れていた。
あぁ、コンビニからの帰り道に落としてしまったせいだ……
「最悪。」
そう心の中で呟いた筈の声は、何故か音になって電話相手の耳に入ってしまった。
「そう言われましても……こちらも大変困っておりまして……」
「あぁ、いやあの……わかりました。明日伺います。詳しいお話はそこで……はい。はい。宜しくお願いします。」
電話を切り、スマホを握り締めたままその場にゆっくりとしゃがみ込んで、左手から滴り落ちるビールがベランダに染みを作っていくのをぼーっと見つめていた。
暫くして、重い腰を上げ溜息をひとつ零してから部屋の中へ入った。
泡塗れになった左手を洗い、既にぬるくなって炭酸の抜けたビールを口に含む。不思議と殆ど味を感じず、きっと不味いであろう液体をただゴクリと飲み込んだ。
「はぁ……マジかよ。」
零れ落ちた言葉と一緒にもう1度深い溜息を吐き出した。
元カレの蓮さんが死んだらしい。
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