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「あの、泣いてもいいですよ?」
「え?」
「泣きそうな顔してるから。僕はさっきもう泣いたから、次はあの……えっと、お名前聞いてましたっけ?」
「あ、すいません。鈴木純也……26歳です。」
「え?」
「え?」
「純也ってジュンジュン?」
「なっ、何でその呼び方……」
「だって、蓮がそう呼んでたから。なんだー! ジュンジュンだったの? 早く言ってよー! めちゃくちゃ他人行儀なフリしちゃったじゃーん。何処かで見た事ある顔だなーって思ってたんだよ。」
いや、佐藤さんと俺は他人です。それに間違いなく初対面です。それにその呼び方、俺は納得してなかったし、俺以外の前では呼ばないでって蓮さんと約束してたのに。
それにそれに、急に何その軽い喋り方? 何で急に蓮って呼び捨て?
色んな事が頭の中をぐるぐると回って眩暈がした。さっきまで頭の中にいた蓮さんとの淡くて切ない思い出たちがどこか遠くへ行ってしまった気がした。
というか何で俺、今更知らなくて良かった事を知る必要があったの?
何で元カレ同士で仲良く会話しちゃったりしてるんだろう。
「ジュンジュン? どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないですし、ジュンジュンって呼ばないで下さい!」
「だって、ジュンジュンはジュンジュンじゃん。蓮もいつもそう呼んでたし。」
「だから、蓮さんは良いんですよ。付き合ってたんだし……でも、あなたとは知り合いでも何でもないんですから。」
「僕はずっと知ってたよ。ジュンジュンの事。」
「だから……!」そう言いかけてやめた。
佐藤さんが少しだけ切ない顔をしたから。あまりに優しい顔で微笑んでいたから。
「蓮、ジュンジュンの事大好きだったよね。僕と居る時もずっとジュンジュンの話ばっかりしてたんだよねー。しょっちゅう写真見せられてたし、惚気も聞いてた。凄く大切にしてたし幸せそうだった。」
「今更ですよ。結局俺は蓮さんに裏切られてたって事だし。」
「裏切られてたって何が?」
「何って……佐藤さんと被ってたんですよ。5年3ヶ月……俺、5年半前から付き合い始めたんで、ほら3ヶ月被ってるでしょ?」
「何が?」
「だから、付き合ってた時期ですよ!」
「あぁ、そんな事….…」
「そんな事って……まぁ、そんな事ですよね。今更……もう。」
「いや、そうじゃなくて。蓮はずっとジュンジュンの事が好きだったよ。ジュンジュンと付き合う前からずっとね。」
「え? すいません。意味がよくわからないんですけど?」
「そっか。えーっと、じゃぁ、これでわかるかな? 僕と付き合う前から蓮はずっとジュンジュンだけだよ。」
佐藤さん、ごめんなさい。余計に意味がわかりません。もしそれが本当だったとしたら、佐藤さんと蓮さんの関係は一体何だったんですか? 俺の事が好きなのに、佐藤さんと付き合ったって事ですよ? それこそ俺とは比べものにならないくらいの裏切りなんかじゃ済まない話なんですけど……
混乱している俺を暫くじっと見やっていた佐藤さんは、ふぅと息を吐いてさっきとはまた違う表情で優しく笑った。
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