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「僕は幸せだったよ。例え蓮の1番好きな人になれなくても、2番目でも3番目でもよかったんだ。それでもいいから一緒に居て欲しいって言ったのは僕だったし、付き合ってる間は凄く大切にしてくれた。僕らには僕らの関係性がちゃんとあったんだ。中々理解してもらえないとは思うけど。
だからね、蓮はジュンジュンの事を裏切ったりなんてしてないよ。本当に、本当。僕はジュンジュンと違って嘘付きじゃないから。信じていいよ。」
「嘘付きって……俺がいつ佐藤さんに嘘を……」
「蓮さんの友だちみたいなもの。もう3年くらい会ってないのにどうしたの? でしょ?」
「あ……すいません。」
「全然いいよ。蓮もしょっちゅう嘘ついてたしね。嘘付きは嫌いじゃないんだ。」
「あ、人を傷付けない為の嘘付きはね。」と佐藤さんはそう付け足してふっと笑った。
艶のある黒い真っ直ぐな髪が窓からの生温い風にふわりと揺れる。長い前髪の隙間から見えた瞳はまだ赤かったけど、とても綺麗な澄んだ目をしていた。
俺の背中は相変わらずTシャツが張り付いていたし、さっきよりもずっと汗をかいていたけど不思議と不快ではなかった。
俺と佐藤さんはその後もずっと蓮さんの話をした。あの食べ物が好きだったとか、よく鼻歌を歌っていたとか、動物ものの映画を見たら必ず泣いていたとか、アロハシャツを集めるのが趣味だったとか。
途中、大家さんから片付けの進行具合を聞く電話がかかってきて、咄嗟に「もうすぐ終わります!」と嘘を付いた俺を見て佐藤さんはまた笑っていた。
俺も笑った。心から笑っていた。
一頻り笑い終えて、昨日からの疑問が頭に浮かんだ。
だいたい今になってどうして俺と佐藤さんに連絡が来たのか。
外が真っ暗になった頃、俺たちはその答えを知ることになった。
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