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どうにか粗方の片付けを終えた俺たちは大家さんに連絡をした。帰り際、手渡された蓮さんのスマホ。受け取ってすぐに、大家さんは今まで溜め込んでいた話を一気に話し始めた。
スマホの暗証番号がわからなくて電話帳を開けずに誰にも連絡が付かなかった事や蓮さんは幼い頃に両親を亡くしており、兄弟もいなく、親戚とも疎遠だった事。
そしてその親戚には部屋の片付けを断られた挙句、業者に頼んで適当に処分してくれと言われ、スマホも受け取ってもらえなかったらしい。けれど亡くなった時も独りだったと聞いていた大家さんはそれは余りにも不憫だと何か手掛かりがないかと蓮さんの部屋を探し回ってくれた。実は大家さん、この仕事に就く前は探偵だったらしく昔の勘を頼りに捜索した結果、トイレに貼ってあったカレンダーを見つけた。そこにあったハートマークで印を付けられていた月と日にちを組み合わせた所、見事にロックを解除。電話帳にあった、俺たちの名前を見つけて電話をしてくれたという訳だった。
数少ないとはいえ、何件かは連絡先があった中で俺たちが選ばれた理由。それは長年の探偵としての勘と、佐藤と鈴木という苗字が決め手だったらしい。
「ほら、日本じゃ1、2位の苗字でしょ? なんだか愛着があるからさ。ね? ちなみに僕は3位の高橋です。」
だそうだ。
ちなみにハートマークの数字は俺のでも佐藤さんの誕生日でもなく、調べてみたらレオナルドディカプリオの誕生日だった。
佐藤さんは、「あー蓮、レオレオの事好きだったもんねー。」とすぐに納得していたけど、俺は初耳で、蓮さんのあだ名センスの無さを改めて思い知っただけだった。
帰り道の下り坂。そのせいなのか否か、足取りはとても軽かった。隣を歩く佐藤さんなんてスキップで下りていたくらいだ。
蓮さんがいちばんお気に入りだったド派手な赤色のアロハシャツを身に纏って。しかもスーツの上からだ。もしも帰りの電車が同じなら、脱いだ方がいい事を教えてあげようと思う。
「ジュンジューン! どうしよう! 止まらなくなった!」
「何やってんですか! 子どもじゃないんだから! もう30歳でしょ!」
「歳は関係ないと思うー!」
蓮さんが何故俺の事が好きだったのに、佐藤さんと付き合っていたのか、別れた後もたまに会っていたのか、その理由が少しだけわかった気がした。
必死な顔で叫ぶ佐藤さんを見て、本気で困っている人を前に申し訳ないと思って我慢していた笑いが、とうとう堪え切れずに吹き出した。
「ふはっ……」
プシュッとした後の缶ビールの泡みたいに。
fin
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