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意味深長な文句にザデットが哂う。
「策士めが。そうか。敵の懐に入り込んで、虎視眈々と……」
余程感心したのか、彼は途中で言葉を失った。
総じて異次元の絶望は救いようのない狂気をもたらす。
「さぁ、さっさと殺してくれ。生き恥は晒したくない」
「いや、殺さない」
覚悟から生じた願望は間髪入れずに遮られた。
「なぜだ? 目障りな存在である私が頼んでいるんだ。絶好の機会だろ?」
意思に倣い、アニエは首を横に振った。
戦闘において全身全霊を捧げた頭がぶっきらぼうに指差される。
「いかなる悪党であろうと、命を奪ってはいけない。
永久不変のくだらない人間倫理が、ここにプログラミングされてしまっている」
くたびれた拍手を送るザデット。その姿勢は若干前屈みになっていた。
「どこまでも出来た男だ。しからば、自らの手で……!」
彼は不意に倒れ込み、落ちていた拳銃を決死の形相で捕まえる。
対するアニエは、反射的に親指以外の4本指でザデットの頭を押さえ、
その後すぐに自身へ接続した。
すると、本能を剥き出しにしていたザデットの動きが、
銃口を自分の額に当てたところでぴたりと止んだ。
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