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 重苦を代償にザデットの絶命を辛うじて避けたアニエ。 口脇からは(ぬめ)りのある紅血が一滴二滴と垂れ落ちる。 「たった今、あんたの邪悪な記憶をファイル化して、俺の脳へ転送(トランスミッション)した。  自決しようなどという愚かな考えは片鱗もなくなったはずだ」 呆気に取られたザデットの首は硬直し、振り返ることもできずにいる。 壮絶な一部始終の反動でしばしの静寂が偶発した。 程なくしてアニエがしゃがみ込み、囁き口調で戒める。 「記憶はこちらの準備が整い次第返してやる。そのときは存分に暴れていい」 シグマスイーグルに違わず、実はアニエも国家転覆を謀る一人であった。 ただ手段と目的に隔たりがある。彼はスパイとして暗躍していた。 国に殺されかけている兄、リミナンを救い出すために。 「……兄さん」 家族を想う、甚く小さな呟きが空中に儚く広がっていった。
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