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 冤罪。リミナンは現在、強盗殺人罪で死刑宣告を受け、 僻地の刑務所に幽閉されている。 しかし、これは紛うことなき濡れ衣であった。 正体不明の真犯人は、 ただアリバイなく犯行現場付近に居合わせたという理由だけで、 リミナンを主犯格に仕立て上げてみせたのだ。 指紋や凶器、DNAなどの証拠何から何まで、 辿り着く先は彼になってしまっていた。  投獄から三ヶ月後の面会にて、 みすぼらしい囚人服を纏う兄は信じ難い弱音を口にする。 「アニエ、もしかしたら俺は本当に罪を犯したのかもしれない……。  虐げられる毎日を過ごすうちに、段々とそんな記憶があるように思えてきた」 腕ずくの洗脳に、人の()いリミナンがひれ伏す寸前まで鬱屈していた。 幼少期から彼と同じ屋根の下で育ったアニエは、 そのような作為ある自白を鵜呑みにはしない。 「負けないで、兄さん……!」 裁判所は再審請求をろくに取り合おうとせず、 弁護士からも判決に歯向かう気構えはさほど見られなかった。 現状のまま静観を続ければ、 穢れなき命がいずれ失われてしまうことは明らかである。 俯くリミナンを無心で見つめるアニエは突として激情し、 テーブルに両手の平を打ち付けた。 「……仇討ちだ」 「アニエ?」 「犯人が見つからないなら、  俺が……この国の荒んだ記憶を壊して創り替えてやる!」 居ても立ってもいられなくなった弟は、 執念を形にすることで、やがて記憶魔術を体得した。 今はその完成を信じ、独り来るべき機を窺っているのだ。
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