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銃痕の点在する鉄筋コンクリートの外壁に、アニエは息を殺して貼り付く。
フェンス状の窓から覗く巨大倉庫には、十数人の工作員が忙しなく蠢いていた。
時限爆弾らしき危険物を慎重にいじる姿も認められる。
シグマスイーグルのアジトと見て間違いない光景であった。
偵察を終えたアニエは潜入の準備を着々と整える。
胸元の内ポケットに仕込んだ拳銃を確かめ、
遂に邪魔なアタッシュケースを地に置いた。
これから彼が挑むのは、裏社会で権威を振りかざすシグマスイーグル。
常に危険と隣り合わせにある彼らの五感は、常人の何倍も敏感だ。
その音がいくら些細であっても、無論聴き逃しはしない。
鉄格子の一部が銃弾に吹き飛ばされて間もなく、地響きを伴う声がした。
「鼠が騒がしい。殺処分しろ」
命令に付き従う工作員たちの足音が押し迫ってもなお、
アニエは落ち着き払い、トタン屋根に向かってワイヤーを投げ上げる。
先端に括りつけられたかぎ針が首尾よく縁に引っ掛かった。
ワイヤーを軽く引いたと思うが早いか、かぎ針に付随した滑車が急回転する。
微細な金属片の舞う塵埃を、彼は勢いよく上へ抜け出すことに成功した。
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